Brazilian Octopus/Brazilian Octopus | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC


 Hermeto Pascoalが参加した作品を追いかけていく中で、本日ご紹介する音盤は中々微妙な位置づけである。Hermetoが参加したにもかかわらず、Brazilian Octopusと名乗る、このグループのメンバーが演奏しているジャケットにはなぜかHermetoの姿はない。なぜならジャケットの撮影をする前に、Hermetoは帰ってしまったから。理由は、収録曲で、せっかくHermetoが対位法を用いて書いたFlute2本のうち片方が、トラック・ダウンの段階で消されたことに原因がある。これにHermetoは激怒したわけである。そういったこともあってHermeto自身が本作に抱く思いは複雑であろう。しかも、このアルバムにHermetoは2曲の楽曲を提供しているが、これが、あまりにHermetoらしくない楽曲なのである。同年にAirtoに誘われて渡米してMilesの『Live-Evil』で大活躍するのと比較すると、その落差に驚いてしまう。70年にはAirtoとのアルバムのみならずDuke Pearsonの名盤『It Could Only Happen with You』やDonald Byrdの『Electric Byrd』にも参加しているのだ。ところが、このアルバムがダメかというと、必ずしもそうならないところが面白いところである。確かに天才Hermetoの想像を超えた才能が全編に渡って作品に強く反映されているわけではない。どちらかといえば、Hermeto色は味付け程度に抑えられている。が、全体にいわゆるMondoLoungeな肌触りではあるものの、Hermetoらしいチョイと捻りのきいた仕掛けが、60~70年代に欧州で制作された凡百のそれらの作品とは異なる洒落た感覚の不思議な味わいのある作品となっている。Hermetoが参加したSambrasa Trioを手にした後に、最初にこの音盤を聴いた時の肩透かし感は今でも憶えているだが、Hermetoがキャリア初期に参加したConjunto Som 4同様、グループの一員としてEnsembleやアレンジで自らの尖がり具合や毒を控え目にするとHermetoの別の一面である洗練と洒落た感覚が前面に出てきてしまうのが興味深い。Airto Moreilaと結成した伝説のQuartet Novoは別格としても、聴きこんでいくうちに、このMondoで不思議なバンドを面白く感じるようになった。

Brazilian Octopus』はBrazilian Octopusが70年にFermataからリリースした唯一のアルバム。ギターのLanny Gordinと、AlemaoことOlmir Stocklerは現在でも活動を続ける重鎮であるし、鍵盤はJongo Trioの歌えるピアニストAparecido Bianchi。Sambossa 5のMaguinhoの兄弟であるCarlos Alberto de Alcantara PereiraSaxFlute担当。Vibraphoe奏者のJoao Carlos Pegoraro。ベースにCarlos Ruiz Matta、ドラムスはDouglas de Oliveira。Flete担当のHermetoを含めて全部で8人編成のバンドである。
アルバム1曲目はloungeな作風が得意なピアニスト/作曲家のMario Albanese作“Gamboa”。いきなりHermetoのFluteVibraphoneのUnisonが浮遊感のあるMagicalな響きを漂わせれば、激カッコイイHermetoらしいキメから5拍子に展開するナンバー。HermetoのFluteソロも短いながら素晴らしい。
Hermeto作の“Rhodosando”。上述のように、まったくHermetoである必然性のない曲で、Happyな雰囲気が漂い、どこで破壊してくれるかと思ったら最後までそのままいってしまう。Fluteも他の曲よりも控え目。
ギターのOlmir Stockler作の“Canção Latina”。イントロから惹きこまれるこの曲もVibraphoneとFluteが心地良い。3連のRhythmを巧みに使い、大サビの展開もお見事。
なんとGabriel Fauréの“Pavane”をLounge風にCover。VibraphoneCheapなオルガンの取り合わせが面白い。
これまた映画音楽風のHappyなムード溢れる“As Borboletas”。間奏のTenorとFluteのアレンジはHermetoらしい。
Up Tempoのギター・カッティングが印象的なB級Jazz RockMomento B/8”。短いながら歪んだギター・ソロも披露される。
Carlos Lyra作の“Summer Hill”はハイハットとFlute、Vibraphoenが心地良いUp Tempoのナンバーでアルバム一番のお気に入り。最高。
再びMario Albanese作の多幸感溢れる“Gosto de Ser Como Sou”。腕利きのメンバーによるJazz Bossaな演奏はさすが。
Hermeto作の2曲目“Chayê”は、鋭さの欠片も感じられない何ともオドケたムードLounge風。最後のFluteソロも短か過ぎ。他人の曲の方がアレンジにHermeto色を出しているのが面白い。
Canção de Fim de Tarde”もホノボノとしたJazz Bossaな仕上がり。
ギターのAlexander "Lanny" Gordin作“O Pássaro”。Major SeventhコードにのせたChorus、Fluteが、これまた映画音楽風
最後はEdu Loboの“Casa Forte”。カッコイイけど、短すぎるHermetoのFluteソロ

この映像ではFlute2本でやっとります。

Gamboa/Brazilian Octopus

(Hit-C Fiore)