
女優さんが歌う作品が好きだ。少しだけ他所行きの顔をしながら自信無げに歌うのが良い。たとえテクニックがなくても、そこにかもし出される独特の雰囲気と素人っぽさの残る無防備な佇まいが実際以上にアピールするのかもしれない。それに比べると、声量もあり、感情表現も豊かな実力派の歌手が頑張って、これでもかと熱唱してしまう歌い上げ系の作品は、個人的には苦手かもしれない。
実力派女性SingerChristiane Legrandは、実は自分にとって作品によって印象が大きく変わる歌手である。Michel Legrandの姉として知られる彼女は、サントラ盤『Une Parisienne(殿方ご免あそばせ)』に収録された“Duo Du Balcn”での高音での高速ScatやAndre Hodeirの60年作『Jazz et Jazz』での技巧的な歌唱でも知られる通り、高い実力を持った歌手である。Les Blue StarsやLes Double Six、The Swingle SingersといったChorus Groupに参加して、さまざまなアイディアに満ちたJazz Chorusを聴かせてくれた。映画音楽では何と言っても64年の『Les Parapluies de Cherbourg(シェルブールの雨傘)』67年の『Les Demoiselles De Rochefort(ロシュフォールの恋人たち)』、『Les Aventuriers(冒険者たち)』といったところが知られるところだ。個人的には『Peau D'ane(ロバと王女)』や、『Galia(恋するガリア)』、Krzysztof Komedaが音楽を手がけた映画『Le Depart』のTheme曲でのChristiane Legrandがお気に入りである。本盤ではBrazil音楽をフランス語で歌うことに挑戦している。Tom JobimやCarlos Lyraのみならず、Milton Nascimentoの67年のアルバム『Milton Nascimento(Travessia)』から、なんと6曲、サントラ盤『O Cafona』の楽曲を2曲取り上げているのが興味深い。音楽的に挑戦する姿勢や、その高い実力からか、曲によっては若干気負いすぎて個人的な好みから外れる部分もあるが、フランス語で力を抜いて歌うChristianeのVocalはやっぱり心地良いのだ。
『Of Smiles And Tears』はChristiane Legrandが72年にリリースした1stソロ・アルバム。Le Trio CamaraのFernando Martinsが参加しているらしい。
アルバムはJobimの“Rome (Children's Games)”で幕を開ける。軽やかなWaltzのリズムにのって
心地良いギターの爪弾きで始まるCarlos Lyraの“Avec Des Je Avec Des Ja (Voce E Eu)”。フランス語の響きが似合う優美なメロディーをDouble Trackで優しく歌うのが良い。と、思っていたらお得意のScatが炸裂する。
Marcos Valle作でサントラ盤『O Cafona』でも紹介したTheme曲“Cent Mille Poissons Dans Ton Filet (O Cafona)”。楽しそうにはじけてますな。
Milton Nascimentoの“La Riziere (Cancao Do Sal)”。ElegantなStringsとFluteの調べにフランス語の響きが何とも不思議な感じ。チョイ力入ったVocalはご愛嬌。
続いてもNascimentoの名曲“Ta Maison N'est Plus La Mienne (Travessia)”。Nascimentoの曲だからなのか、頑張りすぎてかなり力んでしまうChristianeが微笑ましい。
再び『O Cafona』のサントラから“Hlm et Cine Roman (Shirley Sex)”。若干、芝居がかったChristianeのVocalは意見が分かれるところだが、はしゃぎまくるChristineが面白い。
優美なStringsをバックに情感たっぷりに歌うNascimentoの“Maria Endormie (Maria Minha Fe)”。
Baden Powellの“Vai (Canto De Ossanha)”は、色彩感に満ちたアレンジが良い。
最後はNascimentoの曲が3曲続く。“Deux Cmarades (Morro Velho)”は、抑え目のVocalでスケールの大きいメロディーを歌い上げる。
軽やかなScatが素晴らしい“Catavento”。
Miltonらしい神秘的なメロディーを持つ“Tant De Gens (Outubro)”は、Orchestrationやアコギ、ChristianeのVocalが一体となって、ゆったりと飛翔していくような感じが素晴らしい。これでもか、というテクニックを見せつけるより、この位抑えた歌い方の方がChristianeの魅力が良く出ていると思う。
(Hit-C Fiore)