A Noite do Espantalho/Sergio Ricardo | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 昨年から生誕80年を記念してSergio Ricardoの作品の復刻が続いている。Sao Paulo生まれのMultiな才能を持ち、Bossa Nova黎明期にも活躍し、62年Carnegie Hallの公演にも出演した男。ところがそれだけじゃ終わらないのがこのBrasilの裏番シメる男前。放蕩の日々のJoao Gilbertoを居候させてやった男気のある漢は、お坊ちゃんお嬢ちゃんのBossa Novaからギターを壊して旅に出る。Tropicaliaに影響を受けつつ独自の自作自演歌手として映画や物書き、才能に恵まれた男は北東部へと向かった。
 躍動的な北東部のRhythmにのって独自の世界を描き出す秀逸なサントラ盤として知られる本盤。ようやくCD化された。70年代に北東部から登場したAlseu ValencaGeraldo Azevedoといった気鋭のMusicianと創り上げるスケールの大きい世界に圧倒される傑作である。Nordesteの熱い心意気が伝わってくるとともにRicardoの果てることのない音楽への探究心と創造性の高さに脱帽。75年にリリースされたLula CortesZe Ramalhoによる『Paebiru』がAmon Duulも真っ青な、Brasilの密林から時空を歪ませるTrip感に満ちたPsychedelicな電波を発信していたのと同時代。BossaやMPBといった一般的に知られる表のBrasilとは全く違う世界が存在し、荒ぶる魂Nordesteの荒野へ解き放っていた。Tropicaliaと共鳴したこの時代の裏Brasilでは、想像を絶したエネルギーがマグマのように噴出せんばかりであった。RicardoがPernambucoで着想を得た映画のためにAlseu ValencaGeraldo Azevedo、Joabe Teixeiraらを招集して創りあげた一大絵巻。本盤での映画のCut-Upや場面転換を思わせるような音世界は映画監督でもあるRicardoならではのもの。そして当時、不当に表現者、Creatorを弾圧するBrasil軍事政権への体制/権力批判を男気たっぷりにつきつけるRicardoの反骨精神にRockを感じる。

 『A Noite do Espantalho』は74年にリリースされたSergio Ricardoが監督し音楽も担当した同名映画のサントラ盤。全12曲すべてRicardoのオリジナル。
Alceu Valenca力強い歌声から始まる“Cancao do Espantalho”。かき鳴らされるアコギにPercussion、1曲目からいきなりエンジン全開で突っ走る。Psycheなエンディングも素晴らしい。
続く“Hisoria Que se Conta”もPsychedelicな空気をまといながら荒野を突っ走るような気合入りまくりのナンバー。謎めいたイントロから始まりValencaのVocalも変幻自在
Valencaが馬の嘶きも飛び出すけたたましいサウンドを物ともせず力強く歌い上げる“Meu Nome e Ze do Cao”。RicardoのVocalも低音の魅力でせまってくる。生命感に満ち、弾圧してくる国家権力を力でなぎ倒すかのような有り余るエネルギーに圧倒される。
Pena e o Penar”はイントロの野太い雄叫びから一転してArpeggioと女性VocalのAna Lucia de Castroの麗しい歌声、Fluteが幻想的な世界を描き出す。
Geraldo Azevedoも参上して土着的なRhythmと管弦楽器が織り成すAbstractな演奏が素晴らしい“Tulao das Estrelas”はPFMの“Jet LagGentle Giantの世界。短すぎる!
Ricardoの魅力的な弾き語りで始まる“Pe na Estrada”。Geraldo Azevedoを引き連れて、Percussionとかき鳴らされアコギとともに次々と移り変わるBeatが孤高の世界に佇むRicardoの高い創造性を物語る。
Noite de Maria” は悲しげなメロディーを歌い上げるValencaと続くAna Lucia de Castroの儚いVocalに魅了される。バックで歌うRicardoの70年代の刑事ドラマのエンディング・テーマのような「ルルルル~」に思わずむせび泣き。
ピアノのRiffがカッコイイ“Mutirao”。エンディングのChorusも素晴らしい。
これまたValancaとRicardoのVocalに絶妙に絡むアコースティック楽器と次々と展開していく曲調が思わず10ccGodley and Cremeな世界を思わせる“Festa do Mutirao”。目の前に映像が浮かんでくるような音世界はRicardoの真骨頂。
Briga de Faca”は北東部のRhythmにRockな魂をのせてValencaとRicardoがEasy Riderなノリで突っ走るのがカッコイイ。
Ricardoの熱い弾き語りMartelo a Bala e Facao”。途中で北東部のBeatが何回も挿入される。
アルバム最後をシメるのはJoabe Teixeiraの低音Vocalが、またまた“Jet Lag”な中近東~地中海を連想させる旋律を歌い、そこから摩訶不思議な魔境へ彷徨いこむような“Macaua”。西欧音楽中東・Arab音楽が混ぜ合わさったIberia半島のPortugalの人々がBrasil北東部にやってきて先住民やアフリカ大陸から連れてこられた人々と作り上げた音楽。奥が深い。
(Hit-C Fiore)