
確かにテクニックはあるのに越したことはない。ところが、それが全てではないのも真実である。British Jazzを語る時に得てして本場の米国Jazzの凄腕Musicianを引き合いに出して、偉そうに英国のMusicianのテクニックを貶す残念な人が登場する。その時点で彼らはBritish Jazzの聴きどころを全く理解できていないのが良くわかる。欧州のJazzシーンの中でも英国では特に、いかにして米国Jazzの模倣から離れて独自のスタイルを確立していくかに注力してきたMusicianが多く活躍してきたことか。彼らは、たとえ稚拙であろうと誰もやっていない独自のスタイルにこだわり、なんとしても人とは違う事をやってやろうという一点に全てを賭けるわけで、それは民族音楽やRock、現代音楽の領域すら行き来しながらユニークなスタイルを形成する猛者たちを輩出した。そこには英国独特のUnionによる制約も関係していたと思われるが、ともかくさまざまなジャンルを越えた英国のMusician同士の交流が独自のシーンを作り上げていったともいえる。勿論、Miles Davis、John Coltrane、Wayne Shorter、Bill Evansの模倣からスタートしたMusicianも多いが、彼らの中には次第に模倣から抜け出して英国らしさを追求していく者がいた。ギタリストRay Russellもその一人である。Georgie Fame & The Blue Flamesの前任者John MclaughlinやIfのTerry Smithのようなテクニックで勝負するタイプではないし、Derek Baileyのような自由で突き抜けた革新さもない。だが、Russellには醒めた炎が美しくゆらめくような独特のセンスがあった。作曲の面でも非凡なところがあるのもRussellの強みだ。そういう意味ではPhill Millerと共通点がある。器用で譜面が読めるからSession作も多いが、Russellのセンスの良さは自作曲を演奏する場合に特に発揮される。60年代末にCBSに残されたリーダー作こそがRussellの魅力を一番伝えているといえるだろう。
『Turn Circle』はRay Russell Quartetが68年にリリースしたアルバム。気弱そうな表情でBurnsのギターを抱えたジャケットの本盤はRussellの初リーダー作。CBSのRealm Jazz Seriesの1枚としてベースに名手Ron Mathewson、ピアノにはRoy Fry、ドラムスにAlan Rushtonというメンツで録音された。2曲を除いて自作曲で固めた本盤はデビュー作にしてComposerとしてのRussellの才能が思う存分発揮されている。
アルバムのオープニングはWayne Shorterの“Footprints”。端正なピアノと独特のノリのRussellのギターはModalなナンバーに独特の相性の良さを感じさせる。
“Bonita”はRussellの繊細な一面が出たRomanticなナンバー。FryのピアノによるElegantなイントロに続いてムード満点のRussellのギター。とはいえベタな甘さではなくCoolな心地良い風のような世界。
“Oeruvian Triangle”はModalなThemeでRussellのギターが奏でる旋律が面白い。その後Freeな展開になり再びThemeに戻りRussellの奇妙なタイム感を味わえるギター・ソロが面白い。フォービートのノリではないのはノリきれてるのかいないのか、どちらにしてもChris Spedding同様にCoolで観葉植物的な支配性を持つAtomosphereが静かなる余韻を残す。
Charles Lloydの“Sombrero Sam”は残念ながらありふれたJazz Rock調。
研ぎ澄まされたギターのフレーズから始まる“The Fry And I”は清々しく、まばゆい輝きを放つ躍動感に満ちたJazz Waltz。
最後を飾るのは“A Day In The Working Life Of A Slave Of Lower Egypt”と題された三部作。
“Part I Dormancy”のArpeggioにArcoは英国的叙情をベタつくことなくElegantに表現している。
一転して“Part II Tremendum”はドFreeの世界に突入。Composer気質のギタリストRussellは、この時期Free Cllective Improvisationにも関心が高かったのは興味深い。
Mathewsonのカッコイイベースラインから始まる“Part III Path”はRussellらしい甘すぎない叙情性と黒さを感じさせないタイム感による独特の世界が堪能できる。タメがなく突っ込みぎみのギターはある意味、Russellの個性、味となっている。
本盤はテクニックの自慢大会に陥ることなく、British Jazzらしい独自の着想やAtomosphere、知的なEnsembleを味わえ楽しめる秀作となった。
(Hit-C Fiore)