Chicago XI/Chicago | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 全盛期をリアルタイムで知らずに後追いで好きになったChicagoであるが、最初に夢中になったのは彼らの初期の作品であった。『Chicago V』までのアルバムは全部気に入ったのだが、それ以降のアルバムは最初はそれほど好きというほどでもなかった。しかし面白いもので、年をとるほどに最初はピンとこなかった彼らの70年代後期のアルバムが、ターン・テーブルにのる機会が増えていったのだ。とはいっても、当然Terry Kathがいた本盤までの作品であり、80年代のアルバムになるとサウンドはともかく作品としても相当キビシイものがある。というより完全に別バンドだと考えざるを得ないほど80年代の彼らの作品は苦手である。本作はTerry Kathが参加した最後のアルバムである。正直なところ、作品の完成度や斬新さ、創造性、ひらめきやカッコ良さは初期の作品には全く敵わない。アルバムも年1作以上のペースで10作以上作っていけば(しかも初期の3作など二枚組があるわけで)、どんなに才能があっても多少のマンネリズムに陥るのは仕方ない。それでも当たり前の話だが、魔が差したとしか思えない80年代の作品に比較すれば本作は段違いに素晴らしい出来だ。作曲もProduceも外部に任せた大仰で甘ったるいロック魂のかけらも感じられない80年代の作品しか知らない人が本盤のFunkyなTerry Kathの曲を聴いたら驚くだろう。このアルバムでひときわ存在感を放っているのはTerry Kathなのだ。アルバム発表後、Kathの不幸な死でバンドは低迷期に突入するのだが、Terryの最後の輝きともいえる活躍が本作を魅力ある作品に仕上げている。以前も書いたがTerry Kathほど過小評価されているギタリストSingerComposerはいないだろう。

 『Chicago XI』はChicago77年にリリースしたアルバム。ProducerのJames William Guercioとはこれが最後の仕事となった。前作収録の全米No.1に輝いた甘口のBalldの影響で本作は商業主義に走ったPopsに走るかと思いきやFunkでロックでSoulfulなChicagoは、まだまだ健在であった。上述のように全盛期の輝きや実験精神は失われつつあったし、アルバムの統一感もない。明らかに方向性が異なってきたメンバーのソロ作品を持ち寄った感が強くThe Beatlesでいえば『White Album』的な作品かもしれない。だから、肩の力を抜いて、それぞれの楽曲の良さそのものを楽しもうとすると、案外スルメなアルバムなのだ。アルバム全体に流れるMellowで少々ユルい70年代後半の空気とTerryのFunkySoulfulロックなギターとVocalの取り合わせがアルバムに緩急をつけることになった。
アルバム1発目はTerry Kath作のFunkyな“Mississippi Delta City Blues”。初期からのレパートリーでもあったというこの曲は、イントロのTerryの笑い声、カッティングから泥臭くて生命感に満ちたナンバー。
Peter Ceteraお得意のBallad“Baby, What a Big Surprise”。あのケツが痒くなる80年代の赤面ものの仰々しいBalladに比較すれば、まだ許容範囲ではあるし、前作の“If You Leave Me Now”同様に甘口ながら素朴で音数の少ないところ、センスの良いTerryのギターにまだギリギリChicagoらしさが感じられる。The Beach BoysのCarlがChorusで参加している。
Trombone奏者James Pankow作で自らLead Vocalを担当する“Till the End of Time”はOld TimeなR&Bノリが楽しいハチロクのBallad
Policeman”はRobert Lammらしい洗練されたメロディーとコード進行が素晴らしい名曲。Laudir de OliveiraPercussionも効いている。短編小説のような歌詞も味わい深い。70年代後半の隠れた名曲
ドラムスのDanny Seraphineと弟分MaduraRufusDavid J. "Hawk" Wolinskiとの共作“Take Me Back To Chicago”。Wolinskiつながりで参加したChaka KahnのVocalも最高。
軽快な曲調とは対照的にLammらしいブラック入ったキツーイ歌詞が面白い“Vote For Me”。
Terry作の“Takin' It on Uptown”。ジミヘンも一目置いたというKathのギターが唸りまくるFunkyなナンバー。この曲はBrassなしほぼTrio編成で、野太いVocalと弾き倒しの男くささ爆発でガンガン攻めたてるのが最高。ロックですなぁ
Lee Loughnane作の“This Time”。エレピがMellowなこの曲のTerryの官能的なギター・ソロが、これまた最高。LoughnaneのVocalも渋いっす。
アルバムの最後はメドレー三部作となる。
米国音楽界の重鎮Dominic Frontiereの作曲、Orchestrationによる“The Inner Struggles of a Man”からDannyとWolinskiの共作“Prelude (Little One)”へと続き、最後はハイライトの
Little One”。いくら感傷的になるなと言われても、ここでのTerryのSoulfulな熱唱は涙なしには聴けない。Seraphineが娘のために書いたという歌詞も相まって、この後のTerryの不在という現実を知るとついつい過剰におセンチさんになってしまうのだが、White Ray Charlesと賞賛されたTerryの魂入りまくったひたむきなVocalに勇気づけられるナンバーでもある。短いながらもLoughnaneのソロも素晴らしい。 Ceteraのベースラインも良いしFalssettoのChorusもイイ感じ。Terry Kathの曲で始まり、最後はTerry KathのVocalで、このアルバムは幕を閉じる

Terryのギター最高!
Takin It On Uptown/Chicago


Little One/Chicago

(Hit-C Fiore)