Now Jazz Ramwong/Albert Mangelsdorff Quintet | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 久しぶりにジムで汗を流す。トレーニングを長く続けていくには、トレーナーとの相性が大切である。効果的なメニューだからこそ苦しいわけで、その苦難の先に見えてくるものを常にイメージして苦しみに耐えていかなければならない。それはトレーナーを信じているからこそ可能になってくる。などと偉そうなことを書いているが、真面目にトレーニングしているわけではない自分が言えた義理はないのである。それでもやはり、さまざまな試行錯誤の末に自分で納得できる効果が出てくると嬉しい。独りよがりの無茶苦茶なトレーニングで結果が出なかったものが、プロが考え抜いたメニューを何とかやりぬいて結果が出た時、やはりプロ、第三者の冷静な視点からの指摘が大事だと痛切に感じるわけである。
 SwingからBebop革命、Hard Bop、そしてModeFreeとJazzが変容を遂げていく中で、自らの存在価値をImproviserとして追求していく求道者たちがオリジナリティーを確立するのは非常に困難になってくる。特にModalな世界では、そのModeが持つ独特の色に負けないように自分の個性を出した語法を獲得しないと、何を演奏しても同じように聴こえてしまう。自分独自のタイム感であったり音色による独特のフレージングをいかに確立できるかにかかっている。それは従来あった固定観念や音楽理論からいかに自由になれるかであるが、これほど難しいものはない。MilesColtraneがインドやアフリカといった世界へ接近していったのは、そこに従来の西洋音楽Theoryから考えつかない未知の世界があったからだろう。Bartok民族音楽を研究し、過去の音楽を受け継ぐ自らの音楽を、さらなる新境地へと進めていったように、世界各国に伝わる民族音楽はアイディアの宝庫である。特に東洋音楽は、幼少時から西洋音楽に浸り漬かった音楽家にとっては新鮮であったに違いない。本盤は欧州きっての革新的なTrombone奏者Albert Mangelsdorffが、東洋の民族音楽をJazzに取り入れようとした意欲作。

 『Now Jazz Ramwong』は64年Albert Mangelsdorff QuintetCBSに録音したアルバム。ジャケットや、そこに表記された『Albert Mangelsdorff In Asia』という副題から想像できる内容だ。
40年代後半からJazzの世界で活動してきたAlbert Mangelsdorff。上述の変化し拡散していくJazzを見渡しながら、欧州で独自のImproviserとしての地位を確立してきた。あえてBopの語法にたよることない、その孤高の立ち位置は、賞賛に値する。そして、Goethe協会の文化施設団として10週間に及ぶトルコから日本に至るアジア各国を演奏旅行する機会を得たMangelsdorff一行は、東洋の国々に伝わる民族音楽と邂逅する。メンツはAltoGunther KronbergTenorHeinz SauerにMangelsdorffのTrombone、ベースはGunter Lenz、ドラムスにRolf Hubner3管をフロントにピアノレスのリズム隊は前年の傑作『Tension』から不動のQuartet。民族音楽、東洋音楽をJazzに取り入れる動きは、これまで数々の試みが行われてきた。彼の地の民族楽器やRhythm、ExoticなSoundをそのまま模倣するのではなく、Mangelsdorffは古くから伝わる民謡のThemeの旋法(Mode)Beatから生まれてくる即興演奏の可能性を追求した。VolksmusikとJazzの融合ではあるが、あくまでも演奏者は、それらに誘発されたImprovisationを楽しんでいるのが良い。
オープニングを飾るタイトル曲“Now Jazz Ramwong”は ThaiFolk DanceであるRamwongに影響を受けたナンバー。Hubnerのドラミングに思わず踊り出したくなってくる。
続いては、“さくらさくら”の旋律を用いてModalなJazz Waltzに仕上げた“Sakura Waltz”。
Hard Bopな“Blue Fanfare”はタイトルが示すようにMangelsdorffのBlues。Up Tempoで3管の織り成すThemeがカッコイイ。
Three Jazz Moods”は昨年惜しくも亡くなったRavi Shankarが映画『Pather Panchali』のために書いたBengaliに伝わるFolk SongをベースにしたThemeから展開していくJazz Waltz
聴きおぼえのあるメロディーの“Burungkaka”はIndonesia/Malaysiaに伝わるFolk Song。チョイとHumorousなThemeから展開するTromboneソロが素晴らしい。
ShankarのAnagramのタイトルから察しがつくように“Raknash”は、Indian Musicに影響を受けたベースのソロとPercussionのみによる演奏。
Theme From Vietnam”はTromboneの独奏で、あっという間に終わってしまう1分にも満たない曲だがアルバムの面白いアクセントになっている。
最後は6/8拍子の“Es Sungen Drei Engel”。13世紀から伝わるドイツのFolk Songをベースにしたナンバー。これは正にHindemithMingusGentle Giantにも通じる世界。

Rolf Hübnerのドラミングときたら…
Now Jazz Ramwong/Albert Mangelsdorff Quintet

(Hit-C Fiore)