Folk Mond & Flower Dream/Albert Mangelsdorff | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 この薔薇で人の顔を模した幻想的なジャケットはインパクトあり。Albert Mangelsdorff Quintettの『Folk Mond & Flower Dream』がCD化されたのだ。Albert Mangelsdorff といえば個人的にはUnited Jazz + Rock Ensemble。Official Site→United Jazz + Rock Ensemble  あらためて、ものすごいメンツであるけれどMangelsdorffもIan Carrも大好きなVolker Kriegelも天国に行ってしまったか(泣)。一般的にはAlbert Mangelsdorffといえば、若きJaco Pastoriusと共演した『Trilogue - Live』の方が有名かもしれない。個人的にはJocoもスゴイがTromboneMultiphonicsという奏法を確立したMangelsdorffの名手ぶりが際立っていると思う。いずれにしてもFree Jazzバリバリのイメージなんだけど懐が深くて状況に応じて自由に自らの領域を拡大していける人といった印象もある。元々はオーソドックスなJazzを演奏していた人だが、欧州Jazzの中でも硬質で表現主義的な側面も持つGerman Jazzシーンの革新的な役割をになっていた才能の持ち主。Free Jazzは、かなり苦手なんだけど、たまにスンナリ聴けてしまう場合がある。へんに構えずに自然体で、ふと流れている音楽が「気持ちよいな、ちょっと変な部分も含めて」と思ったり。かと思えばイキナリFreakyな咆哮が始まってハチャメチャ弾き倒し系どフリーな世界に突入なんてこともあるけれど。MangelsdorffのFreeは実は聴きやすい部分も多いと思う。TromboneでFree Jazzというのもスゴイが。

最初、Tromboneという楽器に惹かれたのはトボケタ味やのんびりして、柔らかでユーモラスな部分であった。それはFred Wesleyなど、元々Funk系でTromboneという楽器が好きになった事もある。イナタさやほのぼの感を出すだけでなく、表情が豊かな楽器でEnsembleの要としても重要である事を後で知った。またJ.JohnsonFrank Rosolinoといった切れ味鋭いテクニシャンも知る事ができた。それにしても、この楽器を変幻自在に使いこなし独自の世界を切り開いていくMangelsdorffには驚かされる。


 『Folk Mond & Flower Dream』は67年に録音されたAlbert Mangelsdorff Quintett3枚目の作品。これこそFree Jazzという先入観抜きにして聴いて欲しい作品。このQuintettにはギター奏者も鍵盤走者もいない。つまり和音を弾く演奏者がいない。これにより、和声によって制限されない演奏がほぼ可能になる。かといってハチャメチャにならないところが、このQuintettのスゴイところ。演奏者から放たれる機知と迫力に満ちたメロディーは旋律美すら感じさせる。即興演奏というのは、その場で各人が自由な発想で作曲をしていくようなものである。それぞれが、螺旋階段をスキップしながら自由に行き来するように音列をちりばめ、絡み合い、刺激的な音楽が生み出されていく。それが冷たい美しさに満ちているのが重要。中でもTenorSoprano奏者のHeinz Sauerの演奏は、Abstractな空気の中から光り輝く音を拾い集めて美しい結晶を作り上げるようだ。一気に彼のファンになってしまった。ベースのGunter Lenzも調性とRhythmの鍵を握るキーマンとして独自の存在感をみせている。Günther Kronbergのドイツっぽさを漂わせた理知的なAltoも良し。彼らの米国的なBebopの語法とは別の表現を試みようとした演奏は硬質で冷徹な美しさを持っている。Bebopのフレージングやコード進行にたよらない極めて欧州的な発想が独自のオリジナリティーを持たせている。

オープニングの“Plakate ”は、いきなり変拍子。各人の演奏も調性Rhythm制約から解き放たれて、自由に飛び回るかのごとく。

Flower Dream”はベースとドラムをバックにBallad。これだけTromboneで豊かな感情表現ができるMangelsdorff に驚かされる。テクニカルな面も含めて達人だが、この人のスゴ味は、こういう極めて奥深いところにあると思う。Miles Davisも、そういうスゴ味があるけれど、米国産のJazzとは違うアプローチで挑戦するMangelsdorffの真骨頂。

Folk Mond ”は複雑なキメが気持ち良い。青白い炎が静かに燃え上がるようなCoolな雰囲気のナンバー。

Mobile”ではユーモラスなTromboneのリフが面白い。ゆったりしたイントロ。突然Freakyな部分が飛び出してくるFreeの醍醐味。

ModalなThemeで始まる“Thema Mal 3”は本作の中ではかなりオーソドックスなナンバー。とはいってもありふれたフレーズではなく各人の絡み合いも独特。ヨーロピアン・ジャズの一番おいしい部分を感じさせてくれるナンバー。

Rib-Degibib-Degibibosse もキメから入って高速Modalな展開になるのがカッコイイ。変幻自在にスピードを操るドラマーRalf Hübnerが素晴らしい。(Hit-C Fiore)