Brasil/Joao Gilberto Caetano Veloso Gilberto Gil | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 Joao Gilbertoもまた、軍事独裁を嫌ってBrasilを飛び出した一人であった。NYやMexicoで録音された作品は、確かに素晴らしいけれど、JoaoがBrasilに帰国してから制作された本盤の充実度はどうだろう。そこには同じく軍政によって母国を後にしなければならなかった経験を持つGilberto GilCaetano Velosoの姿がある。Maria Bethaniaもかけつけてくれた。軍事政権の下で、これまで人権侵害や所得格差による犯罪率の高さに不満を持ち、海外に移住していた人々は79年に民政移管への公約が宣言されたことを歓迎した事だろう。JoaoがCaetanoとGilbertoに声をかけて実現したこの企画は、あの緊迫した時代から解き放たれた自由な雰囲気の中、嬉しそうな3人の様子が伝わってくるのが良い。そして何よりタイトル通りBahia生まれの3人の母国、そしてBahiaへの想いが感じられるところが素晴らしい。歌われているのはBrasilの名作曲家Ary BarrosoにBahiaを代表する作曲家Dorival Caymmiの作品、そしてBahiaに纏わる歌やFrank Sinatraの持ち歌など。Bossa Nova誕生に大きな役割を果たしたSinatra-Farney Fun Clubの事を考えたり、Bahiaの海を思い浮かべたりしながら、ゆったりと落ち着いた雰囲気で心地良い時間を共有できたら最高だろう。完全主義者のJoaoは心なしか先輩を前に緊張しがちな2人を思いやって、寛いで歌えるようリードしているかのごとく。後から加えられた Johnny MandelのArrangementsにより指揮されたOrchestrationも過剰に装飾されることなく好感が持てる。Bossa Novaの誕生以降に"MPB" (Musica Popular Brasileira)が生まれ、80年代には、それらが海を渡って再び欧米でBrasil音楽が広がっていくことにつながった。そういう時代に、この3人の音楽家はあえて先達の作品に敬意を表した意義は大きい。lyricalなメロディと素朴な歌詞、そして洗練されたアレンジが、過去と未来を結びつけ、3人のお互いを尊重しあう姿勢が、この見事なCollaborationを成功させている。

 『Brasil』は81年にリリースされたアルバム。Sophisticateされてはいるが、あえてカッチリキメることもなく、歌を楽しむ三者三様の歌いっぷりが良い。
アルバムのオープニングは、Ary Barroso作の名曲“Aquarela Brasil”。何とも心地良いRhythmとMelody、そして優しく包み込むようなStrings Orchestraも歌メロに寄り添うような優美な旋律を奏で、最高としか言いようがない。時を忘れてまどろんでしまう。
Desse Alguem (All Of Me)”は3人がUnisonで歌うが、だからこそ和気あいあいとしてイイ感じが伝わってくる。Sinatraの持ち歌でもあるスタンダード曲。
Bahia賛歌の“Bahia Com H”。この曲はJoaoの初来日公演でも歌われたナンバーで、その時の印象が非常に強い。
No Tabuleiro Da Baiana”もAry Barroso作。Baianoになりきった3人に加えて、この曲だけMaria Bethaniaが参加している。BethaniaのCoolなBaiana役が良い。
奇跡というタイトルそのものの“Milagre”。Dorival Caymmi作の名曲。Joaoの爪弾くギターと歌声が、真夏のそよ風のように心地地良く、正に奇跡のような時間が過ぎていく。
最後を飾るのはDadinho e Mateusの“Cordeiro De Nana”。これまた、あまりに気持ちよくて、いい意味での子守唄のように響いていく。
Milagre/Joao Gilberto Caetano Veloso Gilberto Gil

(Hit-C Fiore)