No Samba/Allen Houser | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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  日本で一番歴史が古いといわれたジャズ喫茶が東日本大震災から一年たった節目の日に営業を再開させた(郷愁とジャズ 薫る 中区「ちぐさ」営業を再開:東京新聞 3月12日)。ジャズ喫茶の想い出は、それこそ沢山ある。初めて友人に連れて行ってもらった十代、そして生意気にデート・コースにまでいれてガール・フレンドを困惑させた二十代。クラブで踊りまくるのもジャズ喫茶で思索にふけるのも好きだった。毎日仕事に追い詰められるような日々の中で、そこに安らぎを求めた三十代。そしてめっきり減ってしまったジャズ喫茶への郷愁は今も大切な想い出とともに残っている。と、同時に自分が体験できなかった60~70年代のジャズ喫茶への強い憧れがあるのだ。熱かったであろう時代に、リアルタイムで生々しい音楽と真剣に対峙してきた人たちが本当にうらやましい。本盤がジャズ喫茶で人気を集めていたという70年代の音楽や映画、文学や芝居、建築物から家具、ファッション、TV番組など文化風俗全般への憧れは自分にとって重要なものとなっている。それにしても、当時まったくの無名のTrumpet奏者自主制作盤である本作品がジャズ喫茶という独特の空間の中で輝いていた時代。それは日本独特の閉ざされた空間に見えるかもしれないが、そこから人それぞれの果てしない思索の内なる宇宙が拡がっていったのだ。音楽も人々も、ある意味で幸運な時代であったのだろう。
 さてAllen HouserというWashington, D.C.生まれのTrumpet奏者が今回の主人公であるが、地元を中心とした活動を貫いているがために一般的な知名度は低い。Straight Aheadという自主レーベルを設立し本盤をリリース後も76年には自身がリーダーとなる『Washington Jazz Ensemble』をリリース。どちらの作品にも同郷の先輩であるTenor奏者Buck Hillが参加している。Hillもまた郵便配達の仕事をしながら地元での活動にこだわってきた実力者だ。Hillはその後、自分が大好きなJazz Vocalistで、やはり地元Washington, D.C.での活動にこだわったShirley Hornのアルバムに参加している。Houserは地元に根ざした活動を続けながら商業主義とは無縁の自分の理想とする音楽をひたすら追求してきたのだろう。2000年代に入っても魂の入ったHard Bop作品をリリースし続けている。そこからはJazzに対する真摯な姿勢が伝わってくる。

 『No Sumba』はAllen Houser73年録音の初リーダー作。前述のHouserとHillのフロントにリズム隊はピアノにVince Genova、ベースのSteve NovoselにドラムスのMike Smith。NovoselはRoland Kirkとの活動で知られる人で後にCharles Tolliver率いるMusic Incにも参加している。ドラムスのSmithはSteve KuhnやCharlie Hadenと共演しているようだ。さらに興味深いのはArco Bass奏者としてJazzやクラシック界で活躍するTerry Plumeriを加えている事で、後に映画音楽家として成功する彼のArcoソロが独特である。前述の『Washington Jazz Ensemble』に、HoserやHillとともにNovoselとGenovaが参加している。
アルバム1発目の“Mexico”はピアノとRimshotが心地良いBossa調のBeatで始まり、徐々に盛り上げっていく哀感溢れるModalなナンバー。ソロは哀愁を湛えながら時折Sharpに切り込むHouserと泥臭くBlowするHillと対照的なのが面白い。なんと、Terry PlumeriElectric ViolinのようなJazz Rock調のArco Bassのソロ。続いてSteve NovoselHancockばりのスリリングなアウトも飛び出す見事な鍵盤さばきを披露。バックでMike Smithの変前自在のドラミングも素晴らしい。後半のEmotionalに燃え上がるところでFade Outしてしまうのは本当に惜しい。
一転して“Charlottesville”はMiles調の静謐なイントロから始まるModalチューン。ここでもArcoが哀愁を全開にした音色で悲しげに鳴り響くと、ピアノにリードされてJazz Waltzに展開、そしてピアノが再びHancock調のソロを弾きながらSwingし、再びイントロのThemeに戻って終了。
作者のHillの男っぽいSaxから始まる“No Sumba”。タイトルから連想されるLatinもどきのBeatこそ当時らしくフォービートではないもののHouserのHigh Notesが炸裂する男前Hard Bop一直線
Cousin Rae's 3-Step”はJazz Waltz。独特のEcho処理を伴ったTrumpetが当時のJazzが混迷していた時代を感じさせるが、個人的には面白い。
最後をシメるのは青白く燃え上がるModalな響きの中に熱気を孕む“10 Years After”。
(Hit-C Fiore)