
それ相応の実力を持ちながらアルバム一枚で消えてしまったバンドは、それこそ星の数こそあるだろう。音楽性や演奏技術が高くても、時代に迎合できない、あるいは様々な当時の音楽事情や経済的な事情で魅力あるバンドが消滅してしまうのは残念だけど仕方がないことかもしれない。それでも大手レーベルで、商業的な思惑を度外視して、当時のそれなりに恵まれた録音設備や機材を使ってレコーディングしたアルバムを残せただけでも今の時代からしてみれば幸運かもしれない。ただ、今はインディー等でさまざまな制約にとらわれない良質な作品を制作して、ネットやさまざまなメディアで人々に聞いてもらうことが可能な時代となった。Milanoで73年に結成された6人編成のバンド、Maxophoneが唯一残したアルバムである本盤が世に出た当時は、勿論そういう手段がなかった時代である。それにしてもアルバムをたった一枚しか残さなかった彼らだが、CDがリイシューされ日本でもリリースされ、一部ではあるが熱烈な支持を得ている事や、近年再結成しているという事実は嬉しいものだ。所謂幻の名盤として、本盤は有名だったのだそうだ。聴いてみて驚かされるのは、とてもデビュー・アルバムとは思えない彼らの演奏技術の高さである。そして管楽器奏者をメンバーに含むだけあって、管楽器の使い方が個性的であること。音色フェチとしてはFrench Hornのポイントが高い。この楽器が奏でる牧歌的な調べは個人的にツボである。そしてイタリアならではの歌心に満ちたChorusが面白い。Heavyなギターや目まぐるしく変わる曲の展開の中に突如織り込まれるFalsettoを使った賛美歌風であったり甘美であったりするChorusと柔らかな管楽器のEnsembleが彼らの個性だと思われる。Classicalなアコギやピアノ、SaxやVibraphoneの導入にリズム・チェンジも含めた次々と変化する曲展開といったあたりはGentle Giantを連想させるが、ユーモアやCynicalな部分やStoicな完成度よりも、イタリア人らしい情熱的な部分が上回り、黒人音楽的な語法を盛り込まないあたりが彼らの特徴か。楽器は十分に上手いが、熱く濃い気質と生真面目さゆえに、多くの要素を脈絡なく詰め込み過ぎの感が無きにしも非ずだが、このベタな熱い部分がMaxophoneの魅力でもある。
『Maxophone』はMaxophoneが75年にRicordi傘下のProduttori Associatiからリリースしたアルバム。
アルバムのオープニング“C'e Un Paese Al Mondo”は厳かなピアノの調べで始まり、Heavyなギター、リズムチェンジするスリリングなキメ、そして管楽器と教会オルガンで彼らのClassicalな音楽性をアピール。チョイとPeter Gabrielに似たVocalが始まり、何と陽気にClarinetとピアノにフォービートでランニングするベースという中間部はDixieland Jazz風というのもつかの間、そして再び唐突にClassicalなアンサンブルになるという目まぐるしい展開。最後はお決まりの泣きのギターにバックではイタリアンな歌心あるVocalとChorusが泣け!とばかりに大盛り上がり大会。1曲目で早くもお腹をたらふく満腹させる彼らの個性をアピールした名刺代わりの大曲。
続いてはBluesyなRiffのHeavyなギターで幕を開ける“Fase”。管楽器のアンサンブルを挟み、Saxソロも炸裂。Jazzyになったかと思えばクラシカルに、リズムを変化させながらの目まぐるしい展開が彼らの持ち味でVibraphoneやFluteも飛び出し、後半は個人的にかなり好みの展開に。と、思ったらFade Outで残念。
Classicalな生ギターで始まる“Al Mancato Compleanno Di una Farfalla”。Falsettoで賛美歌のようなChorusとイタリアンな情熱的な歌、そしてArpeggioにFluteとPastoralなバックに歌が続くとお決まりのHeavyなギターで激しい展開、そしてHammondも飛び出す。
イタリアンなVocalが教会オルガンをバックに熱唱して始まる“Elzeviro”。5拍子に展開して、オルガンがイイ感じだなと思ったら突然ギターが暴れ出すも、またFalsettoのChorusで甘美な展開になるもつかの間、熱唱、そして大盛り上がりのエンディングへ。
Paul Hindemithの“Harp Sonata”を引用した“Mercanti Di Pazzie”は神秘的な調べを奏でるFluteやVibraphoneやギターのArpeggioの響きが宝石の輝きのように美しい。
最後のナンバー“Antiche Conclusioni Nerge”は、さすがにネタがつきてHorn隊をRockに導入した場合に安直に思いつくBrass Rock風かと思いきや、彼ららしい牧歌的なHornの中間部を経て賛美歌Chorusをバックに情熱的に歌い上げるVocalにイタリア魂が炸裂。Percussionに動き回るベース、そしてSaxがDramaticに鳴り響き、泣きのギターと教会風オルガン、決まり手は重厚な賛美歌風Chorus。最後まで濃いLatinの血が素晴らしい。
Al Mancato Compleanno Di una Farfalla/Maxophone
(Hit-C Fiore)