The Broadway Bit/Marty Paich | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 こういうのは堂々とジャケ買いと言い切ってしまうのであるが、もうひとつの理由がScott LaFaroである。Big Bandで暴れまわるLaFaroの野太いベースを聴きたいのだ。それからSteely Dan好きの自分にとっては特別な存在のCoolな才人Victor Feldman。と、理由をつけてみたけれど、とにもかくにもジャケットが素晴らしい。舞台衣装のまま、楽屋で本を読む見事な脚線美の美女。奥の女性が手にしているのは「Down Beat」。こういう小洒落たジャケットは大好きだ。通称『踊り子』というらしい、この音盤。さて、ジャケットを眺めながらニヤニヤしてとうとうオヤジの域に入ってきたようだ。いやいや内容だって負けていない。West Coastらしいスッキリ爽快なBig Band Jazzである。Big Bandが苦手な人にこそ聴いて欲しい音盤でもある。夏はやっぱり小股の切れ上がったような、スカッと気持ち良いBig Bandでも聴いてリフレッシュしたい。それにしてもWest Coastの豪華絢爛なメンバーである。AltoにArt Pepper、SaxとClarinetを吹くマルチ管楽器奏者Jimmy Guiffre鯔背なSax吹きBill Perkinsである。LaFaroとともにBig Bandの屋台骨を支え、リードしていくのはドラムスのMel Lewis

 個人的にMarty PaichのBig BandといえばMel Tormeが思い浮かんでしまう。TormeがPaichの楽団と共演した『Mel Torme Swings Shubert Alley』と『Torme Back In Town』の洒脱なJazz。対位法を生かしたPaichの洗練されたアレンジの妙。Tormeの都会的で技巧的なVocalに見事にマッチした演奏である。SwingするMel Lewisのドラムに歌伴でも抜群のArt Pepper。Paichの考え抜かれたアレンジでSwingyなTormeのVocalが映える。夢のようなBroadwayの世界を垣間見させてくれたのだった。Marty Paichはファシスト政権下のイタリアからHollywoodに逃れた偉大な作曲家Mario Castelnuovo-Tedescoに作曲を学びWest Coastきっての名アレンジャーShorty Rogersのバンドで腕を磨いた。彼はピアニストとしてよりも、その知的で洗練されたアレンジャーとしての方が有名だ。

 本作では、なんといってもLaFaroの推進力抜群のベースがMel Lewisのドラムとともに生み出すSwing感たっぷりのリズム。それにのって繰り広げられる、West Caestの一癖も二癖もある腕自慢たちの名人芸を楽しみたい。ここでのLaFaroに、Bill EvansとのTrioのような緊張感に満ちたインタープレイを期待する野暮な人はいないと思う。LaFaroのドライヴ感に満ちたウォーキングはHorizontalな流れに反応し、自由自在に音の中を泳ぎ続け、バンドを盛り上げていく。ここに、EvansとのTrioとは、また別の意味でLaFaroの凄みを感じるのだ。


 『The Broadway Bit』はMarty Paich59年の録音。ミュージカル・ナンバーの名曲を取り上げたアルバム。

アルバムの1曲目に持ってきたのはCole Porterの“It's All Right With Me”。いきなりPaichのシャープなアレンジが冴え渡るSwingyなナンバー。FeldmanVibraphoneが鋭く切れ込み、ベース・ソロも登場。正に名曲、名演奏、名アレンジ。Mel Lewisシンバル・ワークの心地良いこと。

続いて、テンポをグッと落としてスローに迫るミュージカル『My Fair Lady』の挿入歌“I've Grown Accustomed To Her Face”。艶のあるPepperのソロが良い。このスピードでさえ、ムーディーな中に大きなノリを感じさせるリズム隊が素晴らしい。

大好きなChet BakerがWest Coast Jazzの名盤『Chet Baker Sings』でも歌っている“I've Never Been In Love Before”。あえて軽快なアレンジをしたところにPaichの才を感じる。伸びやかな中に何ともいえないリリシズムを湛えた、この曲でのPepperのソロが最高である。実は、この頃のPepperはおクスリ関係で体調はボロボロだったはずなのに、全盛期に勝るとも劣らない輝きを放つプレイは流石。絡み合うGuiffreも抜群のセンス。

PaichのPianoから始まる“I Love Paris”は小粋なアンサンブルに思わず初期Godley&Cremeを思い浮かべたりする。VibraphonePianoの響きとStu WilliamsonのMute TrumpetがHard-Boiledなムードを演出している。

B面トップの“Too Close For Comfort”は洗練されたBig Bandのアンサンブルが爽快なナンバー。色彩感豊かに繰り出されるHornのキレと音色に魅了される。そして、LaFaroのベースが身体に響き渡る快感

メドレーの“Younger Than Springtime / The Surrey With The Fringe On Top”ではPerkins男伊達なTenorにシビレる。Pepperも負けじと応戦。Paichのリズム・アレンジも冴え渡る。

Miles Davisでお馴染み“If I Were A Bell”は、またもMute Trumpetが効果的。Tromboneのアンサンブルと涼しげなVibraphoneの対比が良い。

Lazy Afternoon”は正にゆったりと時間が流れていく気怠い夏の午後の美しい瞬間を感じさせるスロー。さまざまな楽器の音色をパズルのように組み合わせて奥行きのあるサウンドを織り成していくPaichのアレンジに脱帽。

最後を締めるのは“Just In Time”は、もう腰が動き出すアップ。なんとGuiffreもバリサクを披露。ElegantなPerkinsのソロと切れ味抜群のPepperのソロが素晴らしい。

あえて言えば各曲の収録時間が短い。各人のアドリブをもっともっと聴いてみたい気もするが、それらもお見通しで、後味スッキリ、また聴いてみたくなるようにサラッと小気味よくまとめあげたPaichの手腕を賞賛すべきであろう。暑苦しい真夏の夜に、West Coastに集いし、つわものどもが次々と繰り出すのような名演を聴くのは爽快である。

(Hit-C Fiore)