Feel It/Kitty Winter Gipsy Nova | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 これは毎晩、踊り狂い、遊びまわっていた頃に随分と聴いた音盤。ドイツStuttgart出身のKitty Winter Gipsy Novaというグループ。ジャケットの女性がKitty Winterさんとか。Exoticな妖しい魅力がありますな。なんでも、Gypsy Novaというグループ名の通り、彼女はGypsyだそうで、HungryRomaの血を引く彼女のアイデンティティーが音楽の根底に流れているのかもしれない。しかし彼らの音楽はHungryなど東欧で盛んなRomani Music、そのものずばりではない。むしろ、あえてGypsyという名を使用しているのは、JazzLatin音楽FunkRockなど世界各国のさまざまな音楽の要素が入り混じりながら作り上げられている彼らの音楽性を意味しているのかも。また、Bossaテイストを前面に出した曲もありGypsy Novaという名前から連想されるさまざまな意味合いを考えてしまう。とりわけNovaの本来の意味合いはであり、これも彼らなりの主張なのかもしれない。Kitty WinterのVocalをメインに据えながら、70年代らしい、ArpEMSSynthesizerの響きと随所に仕掛けが施された凝った曲作りが気に入っている。この時期のヨーロッパに存在した、Weather ReportReturn to Foeeverに影響を受け多くのバンドの中でも、独自性を目指そうとしたGipsy Novaのサウンドは聴けば聴くほど面白い。一聴するとオサレなブラジリアンとみせかけて一筋縄ではいかない音楽性を持っている。何も考えずに気持ちよく踊れるサウンドであることも確かだし重要であるが。実はドイツ産のこの手のものではNamazの『300 M.P.H.』やOrfeoの『Agua Do Mar』とともに夏向けな1枚でもある。しかし、いわゆる「ヨーロッパ産のブラジリアン・サウンド」と彼らを言い切ってしまうには様々な要素が見え隠れしすぎる。確かにブラジリアンな要素は彼らの大きな魅力のひとつであるが、変拍子を入れたり、この時代らしいSpacyなサウンドを展開して多彩なリズム・チェンジ技巧的なソロを披露する彼らの奥深さに感心する。その鍵となるのはKitty Winterと公私共にパートナーを組む鍵盤奏者でメインのSongwriterのKoonoことKuno Schmid。また、Bossaなギターを披露したりFlugelhornを吹く、ギタリストのMartin Spiegelbergも素晴らしい楽曲も提供している。クラブ・クラシックとして“Mato Pato”と“New Morning”の2曲のみが語られる事が多いけれど、他の曲も負けじと魅力的だ。


 『Feel It』はKitty Winter Gipsy Novaのデビュー・アルバムで78年の作品。

アルバム・タイトル曲“Feel It”で幕を開ける。ブレイクの変拍子の入り方とRoma風のメロディーがカッコイイ。Funkyなリズム隊にのったKitty Winterの凛としたVocalが良い。

Mato Pato”はProgressiveなイントロからアコギとエレピに小気味良いKitty WinterのScatが一体となってフロアを揺るがす高速Sambaチューン。摩訶不思議なシンセ・ソロや途中の展開も彼ららしい。

Puerto”はSolinaStringsによる神秘的なイントロから入り、アコギの爪弾きが心地良いバックにのってVocalが優しく語り掛けるように歌う。バックで流されるSolinaSpacyな響きとKittyのScatが独特の空間を創り出す。アコピのソロ、そしてテンポがアップに展開した間奏、幻想的な世界だ。

再びBossaなアコギにのって英語で歌われるナンバー“I Think of You”。軽やかなエレピ・ソロに溶けてしまいそう。

Percussionとエレピのイントロ、そしてHand Clappingによる変拍子変幻自在のScatが印象的な“New Morning”は、もう踊るしかないナンバー。歌メロにはいってからの涼しげな展開と対照的にエレピの弾き倒し大会も面白い。

Digno Dschirglo”はFunkyなリズム隊と時折Coquettishな表情をみせるKittyのVocalが絶品。

ギターのMartin Spiegelbergのオリジナル“Primrose Samba”はこのアルバムで一番好きな曲。Kittyがアコギだけのバッキングで魅力的なメロディーを歌うイントロからして鳥肌モノ。Flugelhornソロ、KittyのFakeが最高

Song for Paul”もMartin Spiegelbergの手による作品。クラシカルなアコギのイントロ、そして3拍子で、またしても素晴らしいアコギをバックにKittyが子守唄風のメロディーを情感豊かに歌い、一転して4ビートのスリリングな展開をみせる。ここでもFlugelhornソロが素晴らしい。

Stars and Clouds”はLatin調のPercussionが入ったMellowチューン。これまた次々と展開していくメロディーが素晴らしい名曲。そしてアップ・テンポに展開していくところが目茶苦茶カッコイイ。

最後を飾る“Ballad”もFender Rhodesの美しいエレピに合わせてKittyが魅力的なScatを披露するナンバー。夏の静かに夜が明けていく時間にピッタリ。短いけれど深い余韻を残す。

79年の次作『Limelight Suite』は、さらにProgressiveな度合いを増すけれど、フロアキラー以外にも楽曲が粒ぞろいのデビュー・アルバムに軍配が上がる。その後の活動状況はよく知らないが、鍵盤奏者のKuno SchmidはKoonoを名乗り80年代後半にはGypsy系のギタリストのBireli Lagreneの片腕として活動していた。Koono名義で91年に出た『Planet People』という作品にはKitty Winterの名前も標記されている。KoonoといえばWeather ReportJoe Zawinulに非常に影響を受けたプレイをするのだが、なんと98年にリリースされたKitty Winter名義の『Gypsy Nova/The Gipsy Album』というアルバムに数曲だけではあるがZawinulが参加しているではないか。このアルバムではGypsy NovaのメンバーであったドラムのRingo HirthとベースのWilli Gartnerが参加しており、GartnerはAssistant Producerまでつとめている。さらにMartin Spiegelbergも楽曲を提供している。とはいえ、『Feel It』とはかなり志向が違うWorld Musicよりではあった。Koonoと名乗ってからは凡百のZawinulフォロワーとの格の違いをみせつけている。

◎ダヴァダヴァの王道→New Morning/Kitty Winter Gipsy Nova

(Hit-C Fiore)