初めて買ったTrafficのレコード。この2枚組のライブ盤を中古レコード屋さんで見つけて昼食代を使ってしまったのだが、全く悔いはなかった。そして初めてBarry Beckettの名前を目にしたのも、この作品。鍵盤奏者がSteve Winwood以外にもう1人いるってことは、大好きなWinwoodのギターも聴けるのかと思いつつ楽しみに聴き始めた。曲数が少ない、つまり演奏が長いということでインプロたっぷりで長尺の演奏が好きな自分にも魅力的であった。WinwoodのSoulfulなVocalと鍵盤は勿論大好きであるがギター弾きとしてのWinwoodというのも実に味のあるプレイをするのである。その後、Trafficの音盤を次々に聴き漁りWinwoodだけじゃなくDave MasonやWinwood周辺のMusicianにも興味を持っていった。それはRockだけでなくJazzやSoulや民族音楽のフィールドまで及ぶものだった。Trafficに関していえば、初期のPsycheが入った英国風White R&B Bandの佇まいから始まり、一時的な解散やメンバーの入れ代わりなどを通して、さまざまな音楽的変遷を辿った彼らの音楽を一言では言い表せない。しかしWinwoodの米国南部音楽への志向が高まり、Muscle ShoalsのMusician達と作り上げた、この時期の作品は自分にとってTrafficの最も好きな時期でもあり思い入れのある音楽でもある。Winwoodは常に色んなフィールドのMusician達と交流して生み出される、音楽の異種交配を楽しむタイプだろう。TradもJazzもR&BもReggaeもWinwoodは自分なりに消化して独自の音楽を作り出していく。後期TrafficではWinwoodにChris WoodとJim Capldiを伴った英国3人組が核となって音楽の旅を続けていく。このLive盤では一聴すると緊張感が希薄な単に演奏の時間を長く取ったような部分もあるが、試行錯誤を続けた彼らの貴重な記録でもあるのだ。
『On the Road』は73年にリリースされたTrafficのライブ盤。前作『Shoot out at the Fantasy Factory』では、TrafficはWinwoodとChris WoodとJim Capaldiの英国3人組とPercussionのReebopにMuscle ShoalsのRoger HowkinsやDavid Hoodらをメンバーに加わった。そのアルバムのツアーにはMuscle Shoalsの鍵盤奏者のBarry Beckettも同行している。本作品はそのドイツ公演の模様を収録した作品である。米国南部音楽のアーシーで力強いRhythm Sectionをバックに後期Trafficの牧歌的で繊細なTradやJazzの要素も含まれた独特の英国音楽が絶妙の化学反応を起こしていく。
オープニングは名作『John Barleycorn Must Die』からの2連発となる
“Glad/Freedom Rider”。FunkyでJazzyなインストの“Glad”も、英国的な哀愁を湛えた“Freedom Rider”も、マルチ管楽器奏者Chris Woodのプレイが実はTrafficの英国の香りを強く漂わせる重要な要素となっていることがわかる。
抑え気味に、静かに歌うWinwoodのVocalから始まりスケールの大きい盛り上がりをみせる“Sometimes I Feel So Uninspired”は最高。WinwoodのVocalは言わずもがな、徐々に圧倒的なうねりを生み出していくリズム隊と
表情豊かなWinwoodのギターに酔いしれる。フレーズの間の取り方や微妙なWowのかけ加減が絶妙、ギターが歌っている。そしてSoulfulである。WinwoodはVocalだけでなく楽器をSoulfulに歌わせる天才である。そして、この曲でのBarry Beckettは泣きの鍵盤で見事なバッキングをみせる。
“Shoot out at the Fantasy Factory”は、やはりWinwoodのFunkyなギターがカッコイイ。ReebopのPercussionも曲に疾走感を与えている。
後期Trafficの代表曲ともいっていい“The Low Spark of High Heeled Boys”は淡々と演奏が進む中である種の麻薬的な魅力がある。
○最高→Shoot out at the Fantasy Factory/Traffic
最後に今年の6月10日に天国へ召されたBarry Beckettの御冥福を心よりお祈りいたします。
(Hit-C Fiore)