Live Rhymin'/Paul Simon | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 以前、アコギの練習なぞをしてみようかなと思っていて、音楽サークルのOBの方と話していたところ、コレを聴けと教えていただいたありがたい音盤。それにしても、この白いスーツの似合わなさはスゴイ。ところが中身は充実している。実は、それ以来まったく練習していないのだが、今年こそ真面目にアコギを練習しようと、この作品を引っ張り出してみた次第。そして、もう一つPaul Simonのギターをもう一度聴いてみたくなった理由があった。

昨年末に飛び込んできたDavy Graham死去のニュースは相当ショックだったわけで、そんな中で彼に大きな影響を受けたMusicianの1人としてとしてPual Simonの名前があがるのだ。勿論、Bert Jansch, John RenbournJimmy Pageまで英国のギタリスト達に与えたDavyの影響は計り知れないものがある。にも増してアメリカ人であるSimonが、この英国人ギタリストから受けた影響は単純にテクニックだけにとどまらないと思うのだ。

Davy GrahamのOfficial SiteSimonが「Probably England's greatest guitarist」と追悼の辞を述べた ようにPaul SimonにとっていかにDavyの存在が大きかったか理解できる。

Simon & Garfunkel66年の『Sounds of Silence』に収録した“Anji”を聴くまでもなく。失意のうちに渡英してMartin Carthyからフィンガー・ピッキングDavy Grahamから変則チューニングを学んだPaul Simon。さまざまな音楽を探求し自らの血肉としていくジャンルを越境した求道者のようなDavy GrahamにPaul Simonに憧れたのだろう。

Paul Simonといえば、個人的には、優等生的というか勤勉家というかWorld Musicへの取り組み方にしてもどこか本人の肉体が隔離されているかのようだったり、インテリさん特有の少々醒めた視点が苦手であった。スタイルだけを拝借して肉体化できていない余所余所しさを自分は感じていたかもしれない。今はそんなPaul Simonを楽しむ事ができる。そういえば南アフリカのMusicianと協力して制作された『Graceland 』という作品は「現地のMusicianからの音の略奪だ」として発売当時、かなり激しい批判を浴びてしまったそうだ。しかし、そういった議論はさておき、彼の学究的でいかにも白人的な折衷スタイルにみられる弱々しさや空々しさを楽しんでしまう方法もあっていいはずだ。つまり彼は色んな音楽が大好きなのだ。さまざまな音楽への好奇心や単純にカッコイイから、自分が気に入ってしまったからという軽いノリで始まり、一生懸命取り組んでいくけれど本物になりきれないもどかしさが彼らしくていい。それでも結局、優等生的にPopsとして仕上げてしまうPaul Simonに反感を持つ人はいるかもしれない。しかし、自分は、その線の細いともいえる歌声に感じられる人間の弱さに惹かれる。迷い狡猾さやもどかしさや、かすかな希望が実に人間っぽく感じられ憎めないのだ。


 『Live Rhymin'』は74年にリリースされた73年のツアーの模様を録音したLiveアルバム

そしてPaul Simonのアコギの見事な腕前人間くさい歌に魅了されてしまう。何の制約も受けないソロ活動が嬉しかったのか、ここでのPaul Simonは、自由で伸びやかなパフォーマンスを披露する。加えて選りすぐりの名曲を集めたといってもいい位の構成がよい。しかし、ゲストにUrubambaJessy Dixon Singersを迎えた曲よりもPaul Simonひとりでの弾き語りの方が圧倒的に好きだ。裸で晒されていくPaul Simonの歌とギターに心を揺り動かされる。その歌詞もあいまって、歌声と容姿も含めたキャラクターが醸し出す雰囲気。いつも彼の術中にはまってしまうのだ。

Me And Julio Down By The Schoolyard ”はやっぱりいい曲だ。そして物語風の歌詞がダイレクトに伝わってくる。

Homeward Bound”も大好きな曲。アルペジオと歌が一体となった名演だ。それにしても、こういう映像的な歌詞が書けるPaul Simonはスゴイ。

疲弊した大国を歌う“American Tune”は思い悩みながらも決して現実から逃げださないPaul Simonの真骨頂。

Duncan”では南米のグループUrubambaと共演するが、この曲を聴くと貧乏学生だった頃を思い出してしまう。

発表当時はReggaeのリズムも一般的には知られていなかったというナンバー“Mother and Child Reunion”でのChorusをともなったPaul Simonの少しぎこちない感じが面白い。

America”は今でいう「自分探しの旅」に出ようと歌うPaul Simonの余りにも人間的な、希望を夢見ながら苦悩する様が、いかにも彼らしくて気に入っている曲だ。


                   Hit-C Fiore