Niels-Henning Ørsted Pedersenこそが天才ベーシストだ。彼の作品を追いかけるたびに、その才能に驚かされる。よく「彼は確かに超絶テクニックの持ち主であるが歌心がない」などと的外れ極まりない事をいう人がいるが、そんなことはまったく無い。(面白い事にヘタクソなベーシストや頭の固い評論家に限ってそんなことを言う)
例えばSam Jonesと共演した『Double Bass』やOscar PetersonとJoe PassとのTrioの作品を聴いてみてほしい。SteepleChaseに残されたKenny Drewとの素晴らしい作品でのPedersenも決して超絶技巧だけではない。
それにしても60年代の神童Pedersenの信じられないような技能が楽しめる音源が手に入るようになったのは嬉しい。ウッド・ベースを買って毎日練習していた頃に、これらの作品を聴いていたら天と地ほどの才能の違いにバカバカしくなって練習を止めていたかもしれない。
Sahib ShihabのアルバムやJazz Quintet 60、Bent AxenとのTrioの作品で若き日のPedersenのベースを聴いて「これが10代で弾けるフレーズなのか」と心底、驚かされたものだ。
さて、例によって、すっかり大好きなNiels-Henning Ørsted Pedersenの話ばかりになってしまった。本日の主役はBent Jadigである。逞しい男性的なTenorでDenmarakのみならず早くから海外でも活躍していたJazzman。
ドイツのAlbert MangelsdorffのQuintetでの活動の合間にDenmarkに帰国してJazz Quintet 60とも共演している。
自分はDenmarkのJazzといえば即座にPedersenの名が思い浮かぶのだが近年ではPedersenが在籍していたJazz Quintet 60の名の方がクラブ関係などには知れ渡っているかもしれない。
『Danish Jazzman 1967』はDenmarkのDebutに録音されたBent Jadigの67年の作品。
Jazz Quintet 60にいたBent Axen、Allan BotschinskyにNiels-Henning Ørsted Pedersenと組み、ドラムにAlex Rielという最強の布陣。なんとゲストに66年にドイツで名作『Swinging Macedonia』を録音したばかりのDusko Goykovichを迎えている。
近年、この辺の北欧Jazzのレアな作品のリイシューが相次いだけれど、この作品は目玉中の目玉だった。
“B's Waltz”というアルバムの冒頭を飾るJazz Waltzは北欧の美麗な風景が思い浮かぶ名曲。この曲を聴くだけで、このアルバムがどうして名盤と言われてきたか理解できる。Niels-Henning Ørsted PedersenとAlex Rielの北欧最強コンビが縦横無尽にリズムを刻む。その上にJadigのFluteとAllan BotschinskyのTrumpetの織り成す極上のHarmonyに酔いしれる。
続く“Doo's Blues”はDusko Goykovichの手によるHard Bop魂炸裂のナンバー。存在感のあるPedersenのベースが引張り、繊細だが生命感に満ちたTrumpet(これはDuskoっぽいが)と男気溢れるJadigの太いTenorの柔と剛が見事に噛みあう。
“Atlicity”はJadigのオリジナル。Hard-BoiledなJazzの美学が貫かれた作品。ここでのBotschinskyのTrumpetに北欧らしいリリシズムを感じてしまう。冷ややかな美しさ、それでいて熱いHard Bopの魂が感じられる演奏。
最後を締めるのはDusko Goykovic作曲のOscar Pettifordに捧げられたナンバーで“Remember O.P.”。
60年にCopenhagenで、その生涯を終えたベーシストOscar Pettiford。あのMontmartreがオープンした59年の夏にDenmarkにやってきて、かの地のJazzmanに少なからず影響を与えた素晴らしいベーシスト。彼と交流の合ったAxenも、この哀愁に満ちたナンバーを慈しむようにように演奏している。そして後に、この曲を再演する作者のDusko入魂のTrumpetも素晴らしい。この手のバラードでのDuskoの表現力は見事としか言いようがない。
昨年、やっとこの名盤を聴くことができて本当に嬉しかった。
Hit-C Fiore