バリカンで頭を剃ってみた。
ホームセンターで1500円で買った電池式のバリカンで、6ミリにしてみた。
駅前のコンビニでうまい棒を万引きして、逃走の際に停めてあった他人のチャリを拝借したのだ。
追ってきた店員に、タックルの要領で倒され、すぐに捕まった。
おれを引き取ってくれるような身内もいないので、店長に泣いて謝って、反省の意味で剃髪したのだ。
…ウソです、ごめんなさい。
暑かったからな。
風呂場で素っ裸になって、アルカリ電池を2回交換してやっと剃りあがった。
途中、挫折しそうになったが、こればかりは「また明日」はない。
「また明日」は今まで築き上げた何かを捨てたときだろう。
したらハゲが出てきた。極めて不自然な、額のとこ、一文字のハゲだ。
ああ、これは傷跡だな。すぐに気付いた。
はるか昔、しこたま酔っていたおれは、同じくしこたま酔っていた友人の運転する車に乗っていたらしい。
おれはしこたま酔っていたので記憶にないのだ。
おれは病院で気がついた。
頭に包帯と、冷凍みかんを入れるようなネットを被り、病院の寝巻きを着て、大人用のオムツをしていた。
寝台の横にはおれが着ていた服や帽子が血塗れでおいてあった。
そりゃーあなた、ぶったまげたさ。今から思えば「キューブ」や「ソウ」の主人公の気持ちがよく分かる。
おれは血塗れジーンズのポケットから小銭を出して、公衆電話に走ったのだ。ネットを被ったまま、オムツのまま、管を逆流する血液を気にしながら、点滴スタンドをガラガラ押して。
おれは何でここにいるんだ。何があった。え?何でオムツを履いているんだ。
んでもって、当時付き合っていた彼女から、主な事情を聞いた。
何でも、おれと彼女と数人の酔った連中で、その車に乗ったらしい。
まもなくその車は、自爆してゴロンゴロンと二回転して停止。おれだけ負傷したのだ。
釈然としないがしょーがない。
ここから記憶が曖昧なのだ。
おれは七日間程度で退院したつもりなのだが、見舞いに来た連中に言わせると少なくとも一ヶ月は入院していたらしい。診断は、脳挫傷全身打撲。
ヘヴィな名前のわりには、元気なのだが…。
医者には、退院後多少のボケが残りますが、半年くらいで戻りますよと言われた。
確かにボケは残ったらしい。だってボケてる本人は「ああ、おれはボケてるなぁ」などの自覚はないのだ。
周りに言われて自覚する始末なのだ。
まず、見積の計算していても「÷」と「%」と「×」の区別がつかないらしい。
見かねた同僚が間違えやすい「%」にテープで印しを付けてくれたのだが、そんでも「×」を「%」と思って計算してしまうし、そもそもテープで印しを付けたのが「÷」なのか「%」なのか「×」なのか分からなくなる。
んでも、それを指摘されて、説明されても分からんのだな。
「×」つもりで「%」だったり「÷」だったりするのだから。まるで外国語だ。
ただ、これがボケなのか…。なんてな具合に漠然と思ったりして。
しばらくは制作をやめて、企画営業ばっかしやっていたな。
この入院生活が生まれて初めての一回だ。
メシはそこそこだがタバコの本数は減るし酒を呑まなくても平気だし、なによりも点滴が調子良かった。あれはブドウ糖か? できれば一斗缶で買い込み自宅で点滴したくなるが、体調をリセットするには入院が一番かもな。
おれはジーンズとか革ジャンとか大好きだ。
傷ができて、擦り切れて、その一つ一つに確かな過去がある。それが証明される。
古傷は、そんなに悪いもんじゃない。