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哲郎は連太郎に連絡を取ろうとしたが、
例によって連太郎はなかなか捕まらない。
業を煮やした哲郎がマチ子に相談してみると、
どうせ女の所でしょ、とだけマチ子は吐き捨てた。
本来なら連太郎に注意すべき人物は、
哲郎のほかにはどこにもいないはずなのだが、
連太郎に負けないくらいの女好きである哲郎に、
その役は務まるはずもなかった。
そんな二人をいつも端から見ながら、
マチ子は呆れることにさえ疲れ切っていた。
衰えを知らないその美貌に憂いを漂わせる風情は、
とにかくマチ子特有のものだ。
哲郎、40才。連太郎、39才。マチ子、38才。
1962年10月。
連太郎を見つけられない哲郎は、
やむを得ず康晴に打ち明けることにした。
丸顔の康晴の、丸メガネの奥で眼が光った。
康晴は鬼のように読みが深い。
そして一手の重みを誰よりも知っている。
哲郎も連太郎もそしてマチ子さえも、
康晴には一目置いている。
その康晴が、
哲郎の話を聞いて思わず唸った。
腕を組んで考え込んでしまうに至った。
たまたまその時、康晴の隣には円楽がいた。
哲郎から全く同じ話題を耳にした円楽はしかし、
康晴とは対照的に、ダハハハと笑った。
康晴、39才。円楽、29才。
今回、哲郎に情報をもたらしたのは彬だ。
というか、だいたいは常に彬なのだが。
彼は入手した情報の重大性を適切に認識し、
そして哲郎に報告した上、
事態の深刻さについて哲郎に理解させた。
哲郎は引き続き彬に、
情報収集とその分析の継続を指示した。
彬はまだ若いが、
その分フットワークが良く、機転が利き、
智謀に長け、さらには勝負師だった。
哲郎は常にどっしりと大きく構えている。
その分、細かに動く役割は彬に任せている。
彼は哲郎の耳目であり手足ともいえた。
彬、27才。
連太郎はナオミと一緒にいた。
いや、一緒にいたというよりはむしろ、
押しかけていたという状態に近い。
連太郎はしきりにナオミを誘っていた。
腹の中に一物も二物も隠しているかのような、
曲者の雰囲気を匂わせることにかけては、
連太郎は天下一品なのだが、
女性の前では意外な甘さを醸し出す男だった。
ナオミは連太郎を無視しようと、
必死の防戦を試みていた。
なぜなら彼女は尊敬するマチ子から、
あの男には注意しなさい、と忠告されていたからだ。
ナオミ、もうすぐ14才。
ここにいたのか、と哲郎が現れた。
連太郎は少し苦い顔をしつつ、
よお、とすぐに笑顔で言葉を返した。
こんなところで遊んでいやがった!
哲郎は連太郎に豪快に笑ってみせた後、
やや真剣な面持ちで本題に入った。
またあの男が動き出したようだ、と哲郎。
あの男って誰だよ、と連太郎。
ほらアイツだ、と哲郎。
だからどこの誰なんだよ、と連太郎。
二人のやり取りを見守っていたナオミが、
沈黙を保てなくなってつい、回答を用意した。
ひょっとしてそれってギイのこと?
彼女は二人を合点させた。
1962年10月。この年のこの月、
世に言うキューバ危機が勃発することになる。
ギイは閉眼しながら回想していた。
半年前の出来事を。
彼と彼の強力な従者たちは、
ひとつの目的に向けて周到な準備をしていた。
その途中、ある時に突如として襲撃されたのだ。
わずか二人の男たちに、である。
どこの誰かもわからない謎の二人組に。
数千人はいるはずの自分たちに対し、
たった二人で奇襲してきたその命知らずたちは、
ギイの配下の面々を多数負傷させ、
そして彼らは無傷のまま消えていった。
ギイの計画は延期を余儀なくさせられた。
煮え湯を飲まされたかのような思いだった。
ギイはいまでも忘れない。
その二人の男たちの圧倒的な強さを。
そして神々しいまでの美しさを。
ギイ、53才。
哲郎と連太郎は半年前の遠征を、
若干の反省を込めて振り返っていた。
結局あれでは中途半端なやり方だった、と。
二人の見通しは確かに楽観的すぎた。
しばらく数年は動きを控えるのではないかという、
ギイに対する予測が外れたことを、
二人は歯噛みしながら知った。
今度こそ万全を期して、
前回よりさらに周到に準備を施して、
大軍を擁して大規模な現世干渉をしてくると、
ギイの決意のようなものを、二人は感じ取った。
康晴と円楽が二人の前に現れた。
康晴は腕を組んで丸メガネを光らせて唸っていた。
円楽は大笑いしながら得意のセリフを発した。
こいつぁいけねぇや、ダハハハ!
哲郎と連太郎はマチ子のところに、
今度こそ助力してくれるよう頼みにいった。
前回は、気が進まないといわれ断られていた。
マチ子はたった一回だけ溜息をついて、
哲郎と連太郎のそれぞれを一瞥して返答した。
あなたたち、どの面下げてそんなこといえるの? と。
いままでこの私にしてきたことを思い出しなさい、
自分たちの行為を棚に上げておいて、
一体どの口からそんなことをいえるの? と。
私がこの年になるまで、
現実世界のリアルの生活で世間的な結婚ができず、
ふと気付いたらいつの間にか、とされてしまったのは、
一体どこの誰の仕業だったの! と。
そこまでいわれても哲郎と連太郎は食い下がった。
怒りが沸点に達したマチ子は、二人に雷撃を見舞った。
ギイは待ち遠しかった。
いてもたってもいられなかった。
一日も早く、あの二人を再び目にしたい。
奇跡のように絶対的に強いあの謎の二人に。
鬼神の如く魔神の如く、
大軍を蹴散らして涼しい顔をするあの二人に。
ギイは焦がれるような気持ちで、
二人との再会を願っていた。
何としてでもあの二人を、
再度自分の眼前に引きずり出してやる、
そのように彼は熱願していた。
あの二人を登場させる! 必ず!


