最高傑作「Editorial」を引っさげたアリーナツアーを無事にやり切り、「SPY × FAMILY」のオープニングとして「ミックスナッツ」をお茶の間に届けたのも記憶に新しいOfficial髭男dism

しかしその髭男が次に仕掛けたのはまさかのホールツアー

「どう考えてもキャパがおかしいだろ!」とツッコミを入れる方が大勢出たことは間違いない(夏に定期的にホールツアーをやるUVERworldはともかく、状況としては「醒めない」リリース時のSpitzに近い。当然参加できない方続出)


3年前の武道館はチケット先行が「Pretender」のリリース前

よって以前から髭男を追いかけてきた方は悠々参加できたものの、流石に今の人気では簡単に取れるわけがない(さいたまスーパーアリーナ3daysを3月に行ったバンドである)

なので半ば諦めかけていたが、今月上旬にチケットの追加販売を実施

なんとか今回もツアーに参加できることに


開演20分前にも関わらず物販は激混み

会場入りしようにも誘導が上手く行ってないのか、会場に入ってもなかなか前に進めないイレギュラーな状況となっているが、会場内は3年前の武道館と同じ360度方式

ステージ真正面はモニターがないのはホールツアー故かもしれないが…


定刻を少し過ぎた頃にBGMが大きくなり、ゆっくり暗転すると聞き覚えのあるメロディーが流れ、その間に藤原(Vo. & Pf.)、小笹(Gt.)、楢崎(Ba. & Sax.)、松浦(Dr.)の4人と共にサポートメンバーがステージに

レフティはこの日不在で昨年のぴあアリーナ同様、秋谷弘大が参加する布陣(レフティ以外はいつものメンバー)


準備が整うと今年の春まで行われていたアリーナツアーでは重要な役割を担っていた「Pretender」から始まり、UKロックをイメージした小笹が奏でるギターリフや松浦が刻む16ビートも盤石

ミラーボールも最初から回転し我々の参加を祝福しているかのようだが、当然ながら演奏中は余程のことがない限り起立するのが普通

これにより後方立見席からではステージが全く見えない(笑)

1階の座席チケットを購入出来そうな場面でパスワードの入力(今回の髭男のチケット予約は他のアーティストと比較にならない程作業が多い)に戸惑ってしまったのが原因ではあるが、「立見席で9000円弱か…」と振り返ると過去1番に見づらく、SUPER BEAVERで座席がステージに近すぎた反動が来たようにも

故に表情はほとんど見れないが、演奏している髭男の姿がとても綺麗なことは客席最上段からでもはっきり分かる


ホーン隊の3人が加わりアリーナツアーでは最後に演奏されていた「I Love...」で楢崎はシンセベースに切り替え、


「I Love なんて 言いかけては…」


で巻き起こる手拍子はいつ聞いても凄い

この手拍子を24時間365日流しつづければ世界は平和になるのでは?と思うほど

アリーナツアーと異なり、尺を伸ばすアレンジは今回無し


ホーン隊が立ち去った後には久々に「イエスタデイ」を演奏

「Traveler」がホールツアーまでしか出来なかったので、今回生で初聞きの方は多いだろうが、楢崎がゴリッゴリのベースを鳴らし、小笹が冷静にカッティングしていく様子は紛れもなくロックバンド

観覧条件が厳しい客も多いので、


「悪者は僕だけでいい」


がより響いてしまうけれども、生で髭男を見れるのなら全くそうは思わない

松浦がコーラスする様子も久々に見れたし

主題歌になった映画は未だに見ていない


軽く挨拶した藤原から約3年3ヶ月ぶりの武道館公演であることが報告されるが、360度方式のためにメンバーの背後から見ている方(これが脚注席か?)もいる

その方のために、


「ちゃんまつ(松浦)が左手でシンバルを叩くフォームがとても綺麗だからよく見て!!」


と後方で見る方に通な楽しみ方を伝授する藤原

ちなみに立見席には脚立を持ち込む方も多く少し後悔したが、


「武道館全体ではなく、あなたやあなた、あなたのために一音一音大切に届けていきます!」


と藤原が話したように、最近はほとんど演奏されてなかったピアノポップのど真ん中を行く「コーヒーとシロップ」で嫌なことは全部飲み干す

自分は無糖派なのでコーヒーにガムシロップは全く使わないけど


前回の武道館でステージに映された可愛らしい犬と猫のイラストはないけど、「どうせ喧嘩するならこういう痴話喧嘩の方がいいな」と心から願う「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」、哀れな人間の悲哀を愉快なホーンと松浦の正確なビートで描く「バッドフォーミー」とかつての定番曲が懐かしく感じるのはアルバムのレコ発ツアーが立て続けに行われていたから(「Traveler」のホールツアー直後に開催予定だったアリーナツアーが「Editorial」のレコ発に切り替わったため、オンラインライブや1夜限りの有観客ワンマンとなったぴあアリーナ公演を除くと、レコ初ツアーが続いている)

最初の武道館ワンマンにタイムスリップしているようも見えるが、


「最低でクズな男になった気分はどうだい?」


と遠慮せずに、現実を突き付ける「相思相愛」を再び聞けるとは…

藤原が奏でる鍵盤にはもう悲しみしかないけど、小笹のブルージーなギターも同様に目立つ

ただでさえリリースペースが早いバンドだから、すぐにでも聞けなくなる曲が多い

これだけ過去の名曲を連発させると、「立見席9100円でも十分元を取ってる!!」と優越感に

自分が見た25日、それ以外の3日間に参加された方はどこで見たかに関わらず得した気分になっているはず


今回のツアーは髭男結成10周年を記念したツアーとなっており、インディーズ時代の曲も演奏されているのは何度も髭男のライブに通った方には説明不要

無論、ワンマンが初めてで知らない曲が多いと思われる方にも心配ないことを伝えるが、


「前回の武道館のこと、覚えてないんだよね(笑)。前回の武道館、緊張しまくっていたんだけど、今回は足が震えている(笑)」


とカミングアウトする藤原


たまアリでワンマン3daysを開催し、紅白に出場したアーティストとは思えない発言だし、「「Amazing」でドラムを叩きながら歌唱していた際も緊張していたんかい!!」とツッコミたくなるが、


藤原「昨日の夜に武道館の近くを通り過ぎたら、看板が出てなくて。何か思ったら日程が間違えていたらしい(笑)」

楢崎「上から貼り替えればいいのに(笑)…というかスタッフが疲弊しまくっているのはそれが理由!?」


と武道館名物の看板をスタッフがミスしていたことも判明

この事実が明らかになったことで終演後、武道館の看板は注目の的となることに(確かに後半日程に上からはったような後が残っていた)


するとここでまだ音源化されていない新曲「風船」を演奏

秋谷もギターを奏でるツインギター編成となっている曲で、


「スーパーや百貨店で風船を配っている感じ」


と例えていたが、雰囲気はSpitzに近いものを感じた

あのVaundyでも影響を受けているんだから、髭男も影響を受けているだろうけど、髭男らしいメロディーセンスも内包

そういえば「明け方のGet Away」はどうなったのだろう


「このまま、次の曲に行きましょう」


と話す唐突な松浦のアナウンスに爆笑が起こり、「異動辞令は音楽隊!」の主題歌だった「Choral A」では作品にカメオ出演し、作詞作曲も行った楢崎がいつの間にベースからサックスに持ち替え

ベーシストが作ったらそりゃあ、グルーヴィな曲になるけど、自身が作詞作曲した曲でサックスもこなすのは楢崎くらい


楢崎はそのままサックスを担当し秋谷がエレキベースを担う「夕暮れ沿い」は配信ライブでも披露されたビックバンド風のアレンジ

カラフルな照明も曲のイメージにピッタリだが、ビックバンドと派手な照明に照らされて歌唱する藤原は異端なスターではなく、ビッグスター

マイケル・ジャクソンが憑依しているかの様子は、藤原が謙遜したとしても令和のカリスマであることに疑問を抱くものはいないだろう


一転、ムーディな雰囲気を漂わせるのはリリースされたばかりの新曲「Subtitle」

髭男のバックグラウンドと断言できるブラックミュージックに小笹のハードロックルーツなギターが乗る髭男だから描けた新しいバラード

その途中、


「言葉はまるで雪の結晶」


に合わせるように、ステージには壮大な星空が浮かび上がる

天井ではなくステージ上空に


「僕が選ぶ言葉が そこに託された想いが

君の胸を震わすのを 諦められない 愛してるよりも愛が届くまで

もう少しだけ待ってて」


と心配するまでもなく想いは届き、あまりの美しさに見惚れていたが、藤原が


「この曲に似合う季節となりました!」


と話したように、もう冬は近い

1年の流れは早く、なおかつ短い



その流れは早くなおかつ短いというのはライブも同じ

「夕暮れ沿い」と同じ「ラブとピースは君の中」に収録され、ほとんど演奏されてなかった「parade」はホーン隊によってジャズにより近づきつつ、


「鳴らすハンドクラッピング 転がるタンバリン」


に合わせて大きな手拍子が起こり、後半戦の突入を祝福する形になったものの、


「薄明かりは閉ざされ 物語が始まるよ」


で武道館はカラフルな照明に包まれた見たこともない世界へ

このホールツアーが映像化されるんであれば、ジャケットは絶対この場面を採用したほうがいい


その見たこともない世界は「Anarchy」にも変化を及ぼし、不穏なロックンロールだったはずが陽性なロックンロールに大転換

春まで行われていたアリーナツアーで「ノーダウト」をスカに変える大胆な刷新を行っていたのは記憶に新しいけど、「Anarchy」ももはや別物

これを「何の価値もない夜明け」と呼ぶには無理がある

「価値のある夜明け」


まもなく連載終了する「東京リベンジャーズ」の主題歌だった「Cry Baby」は今回も壮大なイントロから導入

よく見ると秋谷もギターを背負い、小笹はよりリードギターに専念できるようになっているが、それでもポップに聞こえるのはサポートキーボードの善岡の存在が大きい

善岡の鍵盤がなければどう考えてもメタルであれ、メタルに聞き慣れない方に配慮するようにポップにしているから

土砂降りの夜に誓ったリベンジは果たした

けどもう少し音圧を強くしていいと思う

元ネタになったであろうインダストリアルメタルの代表、Bring Me The Horizonの「medicine」はライブでも凄まじい音圧となっているから


派手なロックンロールから音圧強いメタルは凄まじい「見たことがない世界」を体感している気分

この状況での「Stand By You」は異世界転生から抜け出すような感触だったけど、ホーン隊による勇ましいアレンジは何度聞いてもカッコいいと思う

ヒップポップルーツのトラックにリリックを載せるミュージシャンは最近また増えてきたけど、リバイバルさせた先駆者は恐らく髭男

と米津玄師(「lemon」はヒップホップのリズムに歌謡曲を混ぜている)だろう

「エスカパレード」リリース後に蔦谷好位置にヒップホップを聞かせてもらったことが原点だったはず

こんなにヒップホップのリズムがJ-POPに活用されるなんて思いもしなかったけど


ラスト2曲が藤原の口によって宣言され、松浦とヌマショー、小笹のドラミングが力強く響き甲子園の感動を思い出させる「宿命」から最後は「九段下」が歌詞に加えられた「ミックスナッツ」

情報過多であまりに難度が高すぎるにも関わらず、ほとんど人力で行い、途中の打ち込みパートになると楢崎がベースを放り出してステージを動き回り、タオルまで投げてしまうのは流石に笑ってしまったが、自分は忘れもしない

たまアリ初日に藤原が、


「だから俺たちは今後「希望」を届けようと思います。みんなが光を与えてくれたから。」


と話したことを

その第一歩がこの「ミックスナッツ」だということを


たまアリ初日に聞けた藤原の弾き語りver.はもう表舞台では聞けないかもしれないが、この世界は偽りだらけ

「SPY × FAMILY」の世界観はあながち嘘ではないかもしれない

本心を隠し合って我々は生きているのではないだろうか

そうした


「仮初めまみれの日常だけど ここに僕が居て あなたが居る

この真実だけでもう 胃がもたれてゆく」


のように、我々も髭男を生で見れるだけで胃がもたれる

それくらい正気ではいられない時間はあっという間に終わった


ホールツアー故に本編も早めに終わり、メンバーもすぐに戻ってくると藤原の鍵盤を元にセッションが始まりアリーナツアーのオープニングナンバーだった「Universe」へ

序盤では秋谷がアコギを奏でており、アレンジがアリーナツアーから変化したのかもしれないが、ここで小笹に機材トラブルが発生

髭男の肝である小笹のカッティングが聞こえないまさかの事態が起こってしまったが、これにより楢崎と松浦のリズム隊がいかに安定感抜群か再認することに


一見松浦のドラムはシンプルに見えるが、シンバルを入れにくいタイミングで刻んだりと高度なテクニックを自然に見せている

髭男の音楽性はパンクやラウドみたく、走ってはならない

どんな曲でも正確にリズムキープできる松浦は凄いドラマーである


「Universe」を終えると藤原の提案により、この10年を振り返るとことになるが、


「3年前の武道館の記録はほとんど覚えていないんだけど、やっているうちに思い出しました。そんなに記憶力は良いほうじゃないんだけど、地方の道を散歩してたら地方でライブしていたことを思い出すように、これからも宝物を沢山作っていきたいと思います」


とこれからもたくさんの思い出を作ろうと決意した楢崎に対し、


「人生について語った気がする(笑)」  


と哲学者のようなことを言い始めるが、楢崎に茶々を入れられる松浦(笑)

自分には全く記憶がないが、


「前回の武道館でステージに当時のチーフが降りてきたのよ。その時、もらい泣きしそうになった。今日は来ているのかな?」


と覚えた前回の武道館を想起するもチーフは本日不在(笑)

4日のうち、1日は訪れるのだろうか

松浦のあとに


「武道館色(多分葡萄?)に髪を染めました(笑)」


と唐突に話しだす小笹が全てを持っていったけど(笑)(藤原も困惑)


そして藤原は、


「正直この10年間で色々学びはしましたが、どこが良くなったか、分かりません。未だにステージでミスするしね。でもライブは発表会じゃないんでね。「ミスしなかった。パチパチパチパチ…。」じゃないんですよ。これからも音楽を楽しみながら色々なことを学んでいきますので、ライブやテレビ番組の収録でミスしていたら笑ってください(笑)」


とこの10年でどんな変化が起こったか把握できてはないけれども、いろんなことを学んでいくことを約束した上で、久々に「日曜日のラブレター」を生で

最近は終演SEのような役割になっていたけど、こうして生で演奏されるのを聞くほうがこちらは嬉しい

ホールツアーが終わってもこれはやり続けて欲しい


「一時期武道館がライブで使えない時期があって、仕事の都合上で偶然通りかかったんだけど、「本当にまたライブ出来るようになるのかな…」って思っていた時期があって…。曲も書けない時期がありました。けどみなさんが僕たちの曲を日常生活の中で聞いたり、ライブ映像を見ていることを想像すると、また曲が書けるようになって、皆さんのおかげでまたこうしてライブで会えるようになりました!」


とたまアリ初日に話していたことと似たようなことを告げる藤原

ほぼ年中ライブをやっていた髭男にとって、紛れもなくライブは大切なもの

そんな大切なものが一時的ながら喪失するのはさながら悪夢同然

「Lost In My Room」に綴られた歌詞がその時の状況を物語っているように

こうしてライブが出来るようになって、本当に良かった


藤原「まだまだ油断はできません。けど皆さんは街頭の光のように輝いてました。ですので僕たちも強い光を放ち続けます。」


と伝えて、最後は「破顔」で静かなファンファーレを鳴らすが、


「ここに来てくれた証として」


と照明を落としてスマホライトで客席を照らす演出へ

客席から灯される1つ1つの光は、今日この日まで生きていた証であり、その光は髭男を支える光となる

この光景はまさに、


「互いを照らし合っては笑う」


そのもの


お互いを照らし合うのは支え合うということ

髭男と我々が繋がっていることを具現化させてライブは終了


サポートメンバーと共に挨拶し、ステージを去る際、


松浦「やっと真っ白じゃない記憶に残る武道館公演になりました!ありがとうございました!!」


と話し、緊張が解れたことを感じ取るがこれを茶化す楢崎(笑)

流石に今回はちゃんと聞こえたようで、客席から拍手が起こると楢崎は大喜び


小笹も、


「10年やってきて今が一番楽しいです!ありがとうございました!」


と感謝したあと、


藤原「今(小笹)大輔が言った通り、10年経っても失敗ばっかりするバンドかもしれないけど、これからもずっと今が一番楽しいと思えるバンドでいたいと思います!!ありがとうございました!!」


と失敗し続けても、今を大事にするバンドでいることを約束して藤原たちもステージを後にした


武道館で2時間半、着席もできずにライブを見続けるのはキツイし、ましてやステージは背伸びしないとほとんど見えない

ここまで過酷な武道館は前にも後にもこれっきりにしたい


でもこの武道館に参加する意義はあった

きっとこのツアーを終えたらまたアルバムがリリースされ、そのままアリーナツアーへ

レコ発となれば聞ける曲は限られてしまう


「ノーダウト」も「FIRE GROUND」も聞けないのは驚いたが、そのうち「Cry Baby」や「Stand By You」だって聞けなくなる

だから過去の曲にもスポットが当てられる今回のツアーはとても貴重だ


CDJ17/18の最終日、年越し後のサブステージで初めて見てから来年で5年近く

あの時、髭男を選んだことは間違ってないと確信している

国民的バンドにはなったけど、髭男は今でもロックで発明家

またこうしてライブを見れた

この一掴みの奇跡を 噛み締めてゆく



セトリ

Pretender

I Love...

イエスタデイ

コーヒーとシロップ

犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!

バッドフォーミー

相思相愛

風船※新曲

Choral A

夕暮れ沿い

Subtitle

parade

Anarchy

Cry Baby

Stand By You

宿命

ミックスナッツ

(encore)

Universe

日曜日のラブレター

破顔




 

※前回見たワンマンのレポ



※前回の武道館ワンマンのレポ