バーミヤンの関連講演 | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

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現在の所海外旅行記は
2014年9月 フランス・ロワールの古城
2015年3月 旅順・大連
2015年8月 台北(宝塚観劇)
を書いています。

バーミヤンの展覧会に連動した記念講演がありましたので、そちらにも行ってきました。

講師は名古屋大学名誉教授・龍谷大学名誉教授の宮治昭氏です。名古屋大学調査隊、京都大学調査隊に参加したことがあり、今回研究ノートが展示されています。

バーミヤンはヒンドゥークシュ山脈の渓谷にあり、全長1.8Kmに及ぶ大磨崖の東西に大仏が掘り出されています。そのほかたくさんの石窟が掘られていますが、その多くは住居用だということです。

まず東大仏は高さ38メートル。巨大な仏龕の中に仏立像があります。6世紀後半ごろの作と見られます。仏龕の横の崖の中に階段がしつらえてあって、上まで登れる構造だということです。仏の顔の近くまで見られるようになっているとか。
バーミヤンの仏像は顔がえぐられていることでも有名です。口の上からスッパリと直線に切り取られており、イスラム教徒が破壊したとも言われてますが、それにしては切り口がきれいすぎます。イスラム教徒は目を中心に破壊するものです。実は、この像は口の上の部分が塑像で作られており、残っている顔から木枠をはめた後があり、塑像で作った顔を固定していたことが判明しました。そしてここは何度が地震に見舞われたことがありますので、その時の衝撃で落ちた可能性があるのです。

この像の天井にあるのが太陽神ミスラの壁画です。地上から見上げて見えるようになっているそうです。
そして、仏像は下から見上げると丁度良いバランスで作られているということです。
仏像はガンダーラの様式ですが、天井画はササン朝の様式です。絵画技法もですが、ゾロアスター教の思想の影響が強く見られます。そのうちミスラの両側の半人半鳥は、右がスラオシャ、左がラシュヌといって死者の魂を導く霊獣です。死者の魂は生前の善悪を計られ、善の方が重ければ「チンワト橋」という橋を渡って天に上ることができます。ここで唐代のソグド人の墓から見つかった浮彫がスライドに映されました。死者の魂がチンワト橋を渡っていく場面です。近年唐代のソグド人の墓の研究が進んでいますが、ソグド人はゾロアスターを信仰していますので、その教義や世界観を表した図像、浮彫などがよく見られます。
仏教でもバラモン教の影響で、善行をしたものが楽土に生まれ変わるという思想を受け継いでおり、それが天上世界へ導くミスラ神と親和性があったのかもしれません。弥勒のおわす兜率天など楽土を描く思想とつながってきます。

さて、西大仏は西の端の断崖に掘られています。端の方なのはそれだけ大きな仏龕と仏を掘り出すことができる崖が西端部にしかなかったこと、そして西の方には王都があったことがあります。
仏像の高さは55メートル。6~7世紀初めごろと見られます。仏像の顔は東大仏と同じ状況でした。口の上からまっすぐ切り取られています。仏像の様式は東と同じくガンダーラ様式を受け継いでいますが、衣文が体に密着するような薄さの表現をしており、インドのマトゥラー仏に近いということです。こちらの天井画は弥勒と兜率天を表しています。弥勒の周囲にはたくさんの仏が描かれていますが、体をひねった三曲法の姿をしていたり、隈取の表現などがインドのアジャンター石窟の壁画に近いものがあるということです。

実際に調査に行った先生がその時の写真をたくさん見せてくれて、バーミヤン全体のイメージがつかみやすくなりました。

そのほかバーミヤンにはたくさんの石窟があり、その中には涅槃像もあり、座仏もあります。大仏ばかりが有名ですが、その他の仏像や壁画ももっと紹介してもらえたらいいですね。そもそもそのへんは一体どこまで残っているのか…。