「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 ガンダーラから日本へ」 | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

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世界の史跡めぐりの旅行記中心のブログです。…のはずですが、最近は観劇、展覧会などいろいろ。時々語学ネタも…?
現在の所海外旅行記は
2014年9月 フランス・ロワールの古城
2015年3月 旅順・大連
2015年8月 台北(宝塚観劇)
を書いています。

長いタイトルでぱっと見なにが趣旨かわかりにくいですが。
龍谷ミュージアムでの展覧会です。「バーミヤン」とあるだけで絶対行かないといけないやつだとわかります。

バーミヤンの大仏といえば、玄奘の「大唐西域記」にも記述がある、アフガニスタンの有名な仏像です。そしてタリバンによって破壊されたことでも。
しかしそこには大仏だけではなく、仏龕に極彩色の壁画が描かれていました。こちらもまた大仏とともに失われてしまいましたが、過去の調査で大仏と壁画の調査が行われており、壁画の模写も作られていたのです。精密な考証と監修のもとに描き起こされたもので、現在はその図を基に世界各地で研究が進められているほどです。

その模写を中心にした展覧会ということなので、行かなくてはいけません。

馬車に乗る太陽神の絵は私も今までに見たことはありますが、緻密な模写と解説を初めてじっくりと見ました。
バーミヤンの大仏には東大仏と西大仏があり、東大仏の頭上には太陽神とみられる像が描かれていました。これはイランの太陽神、ミスラと見られています。背後に円光、手には槍と剣を持ち、四頭の馬が弾く乗り物に乗った姿で表されています。その足元には御者の役割をしている盾を持つ女神がいますが、これはギリシア神話のアテナイに通じるようです。また、半人半鳥のインドのキンナラに似た鳥が飛び、頭の両側には風神のようにショールを翻す天人が舞っています。
ミスラの両側には結跏趺坐するブッダの像や、古代ペルシア~中央アジアで着用された折り襟の衣装を着た供養者と思われる俗人の像が並んでいます。

なぜ大仏像の壁龕にミスラ神が描かれているのか。
この地での仏教の受容には、古代イランのゾロアスター教徒の教義の親和性が認められるということです。
またミスラは太陽神であり、インドの太陽神、スーリヤともつながっているようです。ということで、インドのスーリヤ像もいくつか展示されています。バーミアンの壁画のように正面像で、馬が引く馬車に乗った姿で表されます。

その他ガンダーラの仏伝彫刻も展示されています。ガンダーラ彫刻は、仏伝の浮彫が多いのですが、ここではシッダルタの「出城」の場面のものが展示されます。シッダルタ王子は出家を決意し、愛馬カンタカに乗って城を出ます。その様子もまた正面観で、馬に乗った姿で表されます。

一方西大仏の壁龕に描かれたものは、弥勒の住まう兜率天の様子が描かれたものと言われます。中央に描かれていたと思われる弥勒は剥落してほぼわからなくなっています。弥勒の足の下には左右に交脚の仏が描かれ、その周囲には結跏趺坐の仏が並んでいます。楽器を奏でる天人も描かれています。仏の上方には供物を捧げ持つ天人たちが描かれています。私には天人の造形はクチャの壁画の造形に通じるような気がしました。

そのうち一体の菩薩像が、実物大彩色図になっています。壁画全体の模写は10分の1スケールですが、それでも展示スペースがいっぱいです。実物大となると、一体だけでほぼ等身大ぐらいあります。この大きさの仏画が並んでいるとなると、そうとう大きい壁画になるわけで、全体像は大きすぎて想像が難しいです。

そのほか調査の時の実測図や測量資料、研究ノートなどが展示されていました。
バーミアンには大仏のほかにも壁龕がたくさんあって、涅槃像などもあるそうです。

バーミアンの壁画を堪能したら、その先はバーミアンで発展したとみられる弥勒信仰の広がりについてです。
西大仏の壁画は弥勒のいる兜率天を表したものですが、太陽神ミスラもまたブッダに通じ、釈迦の次に来る仏となる弥勒信仰にもつながっていきます。
弥勒のことが書かれた仏典が集められています。ほとんどは漢訳されたもので、中国または日本で書写されたものですが、その中にタイ語の「スッタ・ニパータ」もありました。

弥勒信仰は次第に整って行き、弥勒上生・弥勒下生という信仰にまとめられていきます。
初期の経典に現れたものは下生の方で、弥勒は兜率天で諸天を説法しており、釈迦の入滅後56億7千万年後に下生することを説きます。
死後に兜率天に上って弥勒にまみえる、というのが上生です。

ガンダーラ仏のうち、弥勒像がいくつか展示されます。交脚または半跏像です。
それから北魏仏、敦煌の菩薩説法図の模写、朝鮮半島の半跏思惟像などが展示されています。

さらに日本での弥勒信仰の展開に関する展示が続きます。

密教では、太陽神=大日如来ということで、弥勒とも同一視されることがあるそうです。
また弥勒信仰は阿弥陀信仰とかぶる部分も多く、来迎図なども描かれます。中には弥勒と阿弥陀が一緒に来迎する絵も。
弥勒曼荼羅とか法相曼荼羅などの仏画が多く、この辺になると興味が薄れてきました。やっぱりバーミアンの壁画やガンダーラ仏への興味にはかなわない…。

それが、弥勒如来像や弥勒菩薩像などの仏像が出て来ると、また興味がよみがえってきます。美しい仏像が続いてうれしい。(仏像も弥勒ばかり集めてます)。
瓔珞や宝冠で荘厳された弥勒菩薩は特に美しくて素敵ですが、飾りのない弥勒如来の悟りを開いた表情もいいな。

なんででしょうね。仏画はあんまり興味がわかない。薄くなって何が描いてあるかわかりにくいものが多いからなのか。でも比較的きれいなものもあるし…。
でもやっぱり仏像彫刻の方が好き。

不思議なことに、西洋美術では彫刻に興味がわきません。ギリシア・ローマ彫刻から近代のロダンやブールデルとか全然…。
絵を見るのは好きなのに。ルネサンスもバロックもロココも。印象派もまあなんとか。
何度か行われてきたルーブル美術館展でも、彫刻が多い時はあまりおもしろくありませんでした。

テンションが下がってきたので、もう一度バーミアンの壁画を見て気を取り直して観覧は終了。

そして、龍谷ミュージアムに来たからには、最後にベゼクリク千仏洞をぐるっと一周。