もし、距離を取られたら。
もし、彼女が来なくなったら。
その考えが浮かんだ瞬間、呼吸が浅くなる。
意識が過去へ引き戻される。
誰にも近づかず。
誰からも近づかれず。
ただ毎日を繰り返していた頃へ。
あの頃は、それが普通だった。
だが、今は違う。
言葉を交わすこと。
時間を共有すること。
自分という存在を、そのまま受け入れられること。
その温かさを知ってしまった。
「……っ」
胸の奥が強く締めつけられる。
失えば、元に戻るわけではない。
もっと深い場所へ落ちる。
彼女がいる世界を知ってしまった以上、もう以前の自分には戻れない。
(彼女を失えば、僕は――)
思考が止まる。
だが、感覚だけははっきりしていた。
(……耐えられない)
その答えだけが、静かに胸へ沈んでいく。
(第222話に続く)