目が覚める。
外は静かで、空気も落ち着いている。
(……今日は、来る日だ)
そう意識しただけで、胸の奥にわずかな引っかかりが生まれる。
悪いものではない。
身支度を整え、庭に出る。
プチトマトと、『幸せの種』。
『幸せの種』はまだ何の変化も感じられないが、土の間から伸びたプチトマトの小さな芽は、昨日より、ほんのわずかに存在感を増していた。
(……ちゃんと、進んでるな)
確かめるように視線を落とし、それ以上は何もせず、部屋に戻る。
暖炉の火を確認する。
棚の装飾にも、自然と目がいく。
それだけで、気持ちが整う。
理由はない。
キッチンに立つ前、足元で気配がした。
ルカが、期待するみたいにこちらを見上げている。
「ルカ、ごはん、何食べたい?」
聞いた瞬間だった。
「ニンジン!」
やけに元気な声。
セイは、一瞬きょとんとしてから、思わず、ぷっと吹き出した。
「……はは。そうだね」
笑いながらそう返して、冷蔵庫を開ける。
ニンジンを手に取ってから、昨日買ってきた他の野菜にも目をやる。
「でもさ、今日は他のも、ちょっと食べてみようか」
押しつけるでもなく、軽い調子で言う。
器を床に置くと、ルカは迷いなく近づいて、まずニンジンにかぶりつく。
しゃく、しゃく。
それから、ちらっと新しい野菜を見る。
一瞬ためらって、鼻先で確かめて、ひと口。
しゃく。
「あれ?これ、おいしいよ?」
セイは、その様子を見て、思わず肩の力を抜き、軽く笑った。
ルカはしばらく無言で食べ続けていた。
ニンジンと、新しい野菜を交互に。
しゃく、しゃく、しゃく。
途中で1度、顔を上げる。
「……これも、いい」
短く、そう言って、また器に戻る。
「そっか」
それだけ返して、セイは自分の分の準備をする。
(第118話に続く)