身支度を終えたセツナは、そのまま庭へ出ると、小さなプチトマトへ目を向けた。
「うん、今日も順調に育ってるね」
朝の光を受けた葉が、小さく揺れる。
まだ頼りないその姿が、どこか微笑ましい。
セツナは小さく微笑むと、ゆっくりキッチンへ戻っていく。
中では、セイがちょうど朝食を仕上げているところだった。
「私もお手伝いするよ」
「もうすぐ終わりますから、ゆっくりしていてください」
「うーん。でも、やっぱり私も何かしたいな」
そう言いながら隣へ来るセツナに、セイは少し考えてから口を開く。
「でしたら、ルカのご飯だけお願いできますか?」
「うん、任せて」
セツナは嬉しそうに頷くと、切り分けてある野菜を器へ盛りつけていく。
ルカが食べやすいよう、小さめに並べながら、そっと床へ器を置いた。
するとルカはすぐに駆け寄り、小さく鼻をひくつかせながら器を覗き込む。
その様子に、セツナがくすっと笑った。
準備を終えたころには、キッチンいっぱいに朝食の香りが広がっていた。
セイとセツナは向かい合うように席へ座り、静かな朝食を始める。
「いただきまーす」
「いただきます」
焼きたてのパンを口にした瞬間、セツナの表情がふわっと緩む。
「うん、この朝食とっても美味しい。パンも美味しいし、目玉焼きもサラダもハムも、何もかも美味しいよ」
「簡単なものばかりですが……」
「ううん、それで十分だよ。ありがとね、セイ」
その言葉に、セイは小さく視線を伏せた。
ルカは自分の器で、しゃくしゃくと野菜を食べている。
時折こちらを見上げては、満足そうに鼻をぴくぴく動かしていた。
静かな朝の家の中に、3人の小さな笑い声だけが、やわらかく溶けていく。
その光景を見つめながら、セイはふと気づく。
以前の自分なら、この静かな時間を、ただ「穏やかだ」と処理して終わっていた。
けれど今は違う。
この時間が終わってほしくないと、どこかで思っている。
その感情に触れかけた瞬間、セイはそっと視線を落とし、温かいスープへ口をつけた。
(第156話に続く)