■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第88話) | 世羅の気功と日常ブログ

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

部屋に入ると、外のひんやりした風から、静かで落ち着いた温度へ、空気が少しだけ切り替わる。

 

部屋移動する途中、セツナがわずかに歩調を落とした。

 

何か考え込むような横顔のまま、彼女がぽつりと口を開く。

 

「あのね……セイ……

 

その声は、いつもより少しだけ低かった。

 

「実は、しばらくこちらの世界には来られなくなりそうなの……

 

セイは足を止め、彼女を見つめた。

 

……そうなんですか?」

 

「うん。年末でどこも忙しくてさ。在宅ワークとはいえ、クライアントからの依頼も増えてきて、納期も立て込んでて」

 

彼女は少し苦笑して、肩をすくめて見せる。

 

「無理して倒れたら元も子もないでしょ?だから、しばらく平日は来ないことにしたの」

 

セイは1度、小さく息を吸い込んだ。

 

……そうですか」

 

それから、穏やかに言葉を続ける。

 

「それは残念ですが……セツナさんの体が、何より大切ですから」

 

「ありがとう」

 

セツナは少しだけ間を置いて、不安そうにセイを見上げた。

 

「でもさ。セイ、1人の時間が増えちゃうけど、大丈夫?」

 

セイの視線が、わずかに揺れる。

 

「私はね、もともと1人の時間が好きだから、わりと平気なんだけどセイはどうかなって……」

 

セイはすぐに答えず、ゆっくりと言葉を整えた。

 

……今までは、大丈夫でした……

 

静かな声だった。

 

「ずっと1人で過ごすことにも慣れていましたし、誰とも話さない時間も僕にとっては普通のことでしたから……ですが……

 

セイは正直に、今の気持ちを言葉にする。

 

「セツナさんと会うようになって、初めて1人じゃない時間”を知ってしまったんです……

 

少しだけ視線を落として、彼は続けた。

 

「セツナさんと過ごす時間の、あたたかさを知ってしまったから……その分、1人の時間が、少し長く感じるようになりました……

 

セツナは何も言わず、ただ静かに聞いていた。

 

やがて、少し困ったように笑う。

 

……そっか。そう言われると、なんだか逆に申し訳なくなるな」

 

「そんなふうに思わないでください」

 

セイは、はっきりと言い切った。

 

「セツナさんが来られるときに、来てくださるだけで、僕には、十分すぎるほどですから」

 

それから、少しだけ間を置いて穏やかな声で続ける。

 

「ただ……もしよろしければ……僕が、1人の時間をどう過ごせばいいのか、一緒に考えていただけたら、と思いまして……

 

セツナは驚いたように目を瞬かせた。


セイは慌てて言葉を繋ぐ。

 

「あの……今までもセツナさんがいない時間は1人で過ごしていましたが、なんとなく過ごすだけの毎日で、特に目的があるわけではなかったんです。ですから、僕が1人の時間でも意味を持てるように、一緒に考えていただけないかと……」

 

その問いかけに、セツナはすぐに笑って答えた。

 

「うん。じゃあ、今から一緒に考えよう。セイが、1人の時間でも大丈夫でいられるために何をしたらいいかをさ」

 

その言葉を聞き、セイはほっと胸をなでおろす。

 

そしてただ静かに、

 

「ありがとうございます……」

 

け答えた。

 

(第89話に続く)