■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第87話) | 世羅の気功と日常ブログ

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

インターホンが鳴り、モニターにセツナの姿が映る。

 

――来た。

 

ドアを開けると、彼女がそこに立っていた。

 

「セツナさん、いらっしゃい。お待ちしていました」

 

「来たよ、セイ。お邪魔します」

 

玄関に入ったセツナは、少し微笑みながらセイを覗き込んだ。

 

「ねぇ、セイ。玄関入った瞬間から思ってたんだけど、なんか今日のセイ、ちょっと顔が明るい気がする」

 

……そうでしょうか。特別なことは何もしていませんが……強いて言うなら……」

 

ふと、視線を窓の外へ向ける。

 

「ん?なにかあった?」

 

……あの、プチトマトの芽が、昨日より少しだけ、しっかりしていて。それが……思っていたより嬉しくて」

 

「え、見たい!一緒に見よ

 

「はい、では一緒に見に行きましょう」

 

2人は並んで庭に出ると、小さな芽を覗き込んだ。

 

セツナは目を細め、まるで自分のことのように喜んでくれる。

 

「ほんとだ。芽が出てちゃんと伸びてる。すごいね、セイ」

 

「ありがとうございます……セツナさんにも、見せたかったので……

 

それからしばらくの間、2人は言葉を交わすこともなく、ただ寄り添うようにして小さな芽を眺めていた。

 

冬の柔らかな日差しが、静かに2人の背中を温める。

 

セイは隣にいるセツナの気配と、土から力強く伸びようとする生命の息吹を、同時に感じていた。

 

1人で見ていた時とは違う、色彩が濃くなったような不思議な感覚。

 

……こうしていると、なんだか心が落ち着くね」

 

セツナがふとこぼした言葉が、穏やかな風に乗ってセイの胸にスッと溶け込んでいく。 

 

セイは小さく頷き、彼女と同じように静かに目を細めた。

 

……はい。僕も、今同じことを考えていました」

 

重なり合うような沈黙が、数秒ほど穏やかに流れる。

 

2人の間に流れる時間が、自然と温かくなっていく

 

けれど、ふと通り抜けた風の冷たさに、セイは我に返る。

 

……いけない。いくらアバターの体とはいえ、ずっと外にいてはセツナさんの体に支障が出てしまう)

 

無意識のうちに自分もこの時間を長引かせようとしていたことに、微かな戸惑いを覚えながら、セイは努めて冷静にこう切り出した。

 

……名残惜しいですが、そろそろお部屋に戻りましょうか。少し風が出てきました。せっかくこちらの世界に遊びに来てくださったのに、セツナさんが風邪を引いてしまっては大変ですから」

 

「あ、そうだね。つい見入っちゃった」

 

セツナは名残惜しそうに最後にもう1度芽を見つめてから、顔を上げて笑った。

 

「うん、戻ろっか」

 

そう言って2人は、心に灯ったやわらかな温もりを胸に抱えたまま、並んで部屋へ戻った。

 

(第88話に続く)