朝、目が覚めると昨日のプチトマトの芽を思い出し、自然と口元が緩む。
いつものルーティーンをこなしながらも、心のどこかが少しそわそわしている自分に気づく。
庭に出てプチトマトを確認すると、芽は昨日よりわずかにしっかりとしていた。
(……よく育っている……)
その成長を自分のことのように感じて戸惑うが、深くは考えず、今はただ小さな喜びとして受け取ることにした。
そのあとはいつも通り、簡単に朝食を作り、1人で静かに食べる。
淡々と片づけを済ませ、細かな用事もひとつずつ片付けていく。
そして午後、キッチンに立ち、お茶の準備を始めた。
先日買ったお菓子をテーブルに並べ、カップや皿も手に取りやすい位置へと移動させる。
どれも特別なことではないが、彼女が来ると思うと、どうしても動作のひとつひとつが丁寧になった。
その静かな準備の時間が、少しずつ心を軽くしていく。
玄関や窓を確認し、庭の芽をもう1度眺める。
(セツナさん、喜んでくれるかな……)
そう考えて、セイは小さく微笑んだ。
そのとき、操作端末が小さく反応を返す。
――〈今から行くね〉
短いメッセージ。
それ以上も、それ以下もない。
――〈はい。お待ちしています〉
即座に返信し、セイは立ち上がった。
慌てることなく、けれど途中で自分の歩く速度がわずかに早くなっていることに気づく。
その理由は考えない。
考えなくてもいいことだと、自分に言い聞かせた。
(第87話に続く)