セツナを見送った翌朝。
セイはまた、いつもの時間に目を覚ます。
この世界に閉じ込められてから、着替え、洗顔、庭の手入れ……そういった一連の動作を「習慣」として繰り返すことが、いつしか自分を保つための大切な一部になっていた。
庭に出て、プチトマトと『幸せの種』を確認する。
土はまだ沈黙したままだが、それを見つめる自分の気持ちが穏やかなことに気づく。
だが、ただそれだけだ。
何かの意味付けまではせず、自然と思考の隅に追いやる。
部屋に戻ると、暖炉の光が淡く壁を照らしていた。
ふと、棚に置いた小さな装飾品に目が留まる。
昨日、彼女が楽しそうに触れていたものだ。
(……昨日は、いつもより楽しかったな)
なぜそう思ったのかはわからない。
だが、誰もいない部屋でただその余韻をじっくり味わう時間は、不思議と退屈ではなかった。
午後の光が窓から差し込む。
セイは無意識に、テーブルや椅子の位置を少しだけ整えた。
特別な理由はないが、次に彼女が来た時に居心地よく感じてもらえればいい——そんな些細な考えが、いつもの単調な作業に少しだけ彩りを与えていた。
小さな用事を済ませ、昼食をとり、午後はゆったりと時間を過ごす。
そして夜、布団に入り、照明を落とす。
瞼を閉じれば、雪だるまの丸い形や、楽しそうに笑うセツナの姿がぼんやりと浮かんでくる。
(……今日も、無事に終わったな)
静かな満足感が、ゆっくりと胸に広がっていく。
セイは自分が今ここに居ることを静かに受け止めながら、穏やかな眠りへと落ちていった。
(第84話に続く)