目が覚めた。
時計を見なくても、なんとなく分かる。
(……今日も、ちゃんと起きられたな)
ただそれだけのことに、少しだけ安堵する。
特別な理由はない。
習慣が崩れなかった、というだけのことだ。
けれど、その事実が、ほんの少し支えになっている。
身支度を整え、庭に出る。
『幸せの種』とプチトマトを確認する。
芽は、まだ出ていない。
(まあ……そんなに早く変わるものでもないか)
風は弱く、静かな空気が庭を包む。
部屋に戻ると、暖炉の光がゆらいでいた。
意味はない。
ただ、視界にそれがあるだけで、少しだけ心が落ち着く。
(……今日は、セツナさんが来る日だな)
そう思った瞬間、自然とそのことを前提に考えていた自分に気づく。
椅子の向きを直し、テーブルの上のものを端に寄せる。
散らかっているわけではない。
けれど、少しだけ気になった。
意味があるかは分からないが、悪い感覚ではない。
食事を簡単に済ませ、食器を洗う。
動作は、いつもより少しだけゆっくりに感じる。
(……今日は何を話すんだろう)
考えても、答えは出ない。
でも、答えがなくても困らないことだけは分かる。
部屋の中を一巡する。
何かが足りない気もするが、結局、何も変わらない。
(……まあ、こういうものか)
窓の外を見る。
光は柔らかく、午後に近づいていることを感じさせる。
胸の奥に、ほんの小さな温かさが灯る。
(第76話に続く)