次の日の朝。
いつも通り着替え、洗顔を済ませる。
(……明日は、彼女が来る日だ……)
セイは無意識にそう考えた後、自然と必要なものを買い揃えに行くことを考えていた。
(新しいお茶を用意しておくか……彼女が喜びそうなお菓子も)
そう決めたところで上着を手に取り、近所の店へ向かう。
歩きながら、ふと無意識に彼女が好みそうなものや場所に目が向いている自分に気が付く。
華やぐ街のクリスマス飾りや、彼女が好きそうな落ち着いた路地。
今まで視界に入っていながら、認識すらしていなかったものが、セツナという存在を介することで、新たな意味へと書き換えられていく。
そんな自分の変化に多少の戸惑いを覚えつつも、広がっていく世界の輪郭を、セイは静かに受け入れていった。
その後、いくつか店を回り、目的の品を手に入れる。
そして拠点に戻った後、購入したものを整理しながら、セイは胸の奥に小さな満足感が広がるのを静かに感じていた。
なぜかは、わからない。
特別なことは何もしていない。
ただ、彼女を迎えるための準備をしている。
その事実だけを、今はただ、静かに噛み締めていた。
そして整理を終えた後、セイは椅子の背にもたれて一息ついた。
窓の外はいつの間にか、夜の静寂が降りてきていた。
(……もう、こんな時間か……)
明日になればまた、彼女の明るい声がこの空間に響くはずだ。
その想像をするだけで、胸の奥にある「準備」が、本当の意味で完成に近づいていく。
「……楽しみだな」
そう無意識にこぼれ落ちた独り言が、暖炉の炎に溶けて消えた。
特別な期待はしない。
けれど、確かな予感とともに、セイは明かりを消し、そっと目を閉じた。
(第75話に続く)