次の日の朝、いつも通りに着替え、洗顔を済ませる。
その後、庭に出て、『幸せの種』やプチトマトを確認した。
土はまだ静かで、芽が出る兆しはない。
(……まだ、早いか)
そう思いながら水をやり終え、部屋に戻ると、暖炉のそばに飾られた昨日のリースが目に留まった。
暖かい火の光に照らされた緑の輪。
それだけでも十分に鑑賞物としては良かったが、広い壁に対しては、どこか少しだけ寂しげに見えた。
そこでふと、昨日のクエストの報酬で手に入れた『クラフト用ランダム素材』を思い出す。
端末を操作し、アイテム一覧から取り出した袋の中には、艶やかな赤い実のガーランドと、小さなベル、そして数本のシナモンスティックが入っていた。
(……これだけでは、装飾品を作るには少し足りないな)
以前の自分なら、必要ないと判断したものはいつの間にか記憶の底へ沈み、やがて忘れてしまっていただろう。
だが、暖炉のそばで弾けるように笑っていた彼女の表情を思い出すと、ただ待つのではなく、自分から何かを形にしたいという衝動が静かに首をもたげた。
(……もう少しだけ、手を加えてみてもいいかもしれないな)
そう考え、セイは獲得した素材から作成可能な「室内装飾」を検索した。
そして表示された中から、暖炉やリースに最も調和すると判断し、選んだのが『スワッグ』という名称の壁飾りだった。
(スワッグ……花束を逆さにして吊るす、伝統的な装飾か……)
効率を重視するなら、報酬のアイテムを適当に組み合わせるだけで十分なはずだ。
そう考えてセイは上着を手に取り、近所の人目につかない小さな雑貨店へと向かった。
あそこなら、この素材に合う麻紐や、土台になる自然な形の木の枝が手に入ると考えたからだ。
そして、店の棚からいくつか必要な材料をカゴに入れ、必要な分だけを買い揃えてセイは拠点に帰った。
拠点に帰ってからの数時間は、驚くほど静かで、そして濃密な時間になった。
昨日の共同作業を思い出しながら、赤い実をバランスよく配置し、シナモンを添えて、花束を束ねるように「スワッグ」を形にしていく。
(……左右の比率はこれでいいか?……この枝の曲線は、隣のリースと干渉しないだろうか……)
淡々とした、指先だけの作業。
けれど、出来上がっていく飾りを眺めるたび、胸の奥にわずかな灯火が宿るような、不思議な高揚感があった。
(……悪くない……これならきっと、セツナさんも……)
そう考えながら、完成した飾りを、暖炉の横に並べてみる。
すると、部屋が昨日よりもさらに「彼女の好きそうな空間」へと塗り替えられていく。
その変化に、セイは自分でも驚くほど、穏やかな満足感を覚えていた。
そしてその夜、新たな物で満たされた空間を静かに眺めてから、セイはベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じた。
(第73話に続く)