翌日。
朝のルーティーンに、すでに「庭に行く」が完全に組み込まれていた。
土に目立った変化はない。
もちろん『幸せの種』にも変化はない。
けれど、昨日よりも温度が安定し、ハウス内の空気に、育つ気配がほんの少し漂う。
そしてセイは、1人静かにつぶやく。
「……時間が必要だな」
その言葉は、なぜか自分自身に向けられているようでもあった。
その後、一通り庭を確認したセイは部屋に戻り、上着をクローゼットにしまう。
視線は、無意識に“空いたスペース”へ向かった。
(……今度来たとき、彼女が使うかもしれない)
そう考えるだけで、胸の奥が温かくなる。
午後。
少しだけ部屋を掃除した。
理由はひとつ。
(次に彼女が来たとき、心地よく過ごしてほしい)
その思いは、もはや恥ずかしいものではなく、自然に受け入れられる形になっていた。
夜。
ベッドに腰を下ろし、薄暗い天井を見上げる。
(……明日、彼女が来るんだな)
そう思うだけで、静かな期待が胸に宿る。
プチトマトも、『幸せの種』も、まだ変化はない。
しかし、確かに変わり始めているのは“自分”だと、セイは気づいていた。
そしてその気づきは、声にならず、ただ静かに、胸の奥で芽吹く前の種のように息づいていた。
(第65話に続く)