※前回の62話を2月19日23:00に加筆修正しました。
次の日の朝。
昨日と同じように庭へ行き、『幸せの種』とハウス内を確認する。
土はまだ沈黙したまま。
しかし、目に見える変化は感じられなくても、流れた時間は土の中に残っている。
(……温度は保たれているようだな)
セイはそう考えながらも、朝食の準備のために、キッチンに向かう。
午後。
昼食を済ませたあと、外出用の上着を取ろうとクローゼットを開く。
視線はまた、空いた隙間に向かった。
(……共同のスペースなんだな……)
誰にも確認されていないのに、自然と気をつけて使おうとする自分がいる。
そんな小さな変化に戸惑いを感じつつも、セイは身支度を整えて家を出た。
街に出ると、以前は目に入らなかった“2人向けのもの”が、自然と目に留まる。
並んだマグカップ。
2人用のスローケット。
クリスマス用の小さなリース。
セイにとっては、今まで、「自分の生活とは関係ない」と、割り切ってきたものたちだ。
でも今日は、違った。
(……これは、彼女なら喜ぶだろうか)
そんなふうに考える自分に、思わず小さく驚く。
そして胸の奥がわずかに軋むような、けれど不思議と悪くない感覚を覚える。
だがセイは、それをどう定義すべきか答えを出さないまま、家路を急いだ。
夜。
静まり返った部屋でベッドに横たわると、窓の外に広がる夜空を見上げる。
今日という1日の端々に、彼女の気配が混ざっていた。
そう考えつつも、セイはそれを深く追求するのをやめ、ただ静かに目を閉じた。
(第64話に続く)