朝、いつもの時間に目が覚める。
着替えて顔を洗い、簡単な朝食を済ませる。
その一連の流れは、普段と変わらないものだった。
でも、ふと自然に頭に浮かんだのは、「庭へ行く」という行動だった。
『幸せの種』と、昨日、セツナと2人で組み立てた小さな透明ハウス。
プランターの上には、まだ湿った土が静かに横たわっているだけ。
芽が出るにはまだ早いのはわかっている。
それでもセイはしゃがみ、そっと土の表面を確かめた。
「……乾燥はしていないようだな」
念のため、少しだけ霧吹きで水を足す。
その動作が、どこかいつもより丁寧になっている自分に気づく。
(……“彼女”が手をかけたものだからか)
それだけで、扱いが変わる。
胸の奥に、温かさが広がった。
部屋に戻り、上着を脱いでクローゼットを開く。
自然と視線は“空いたスペース”に向かう。
広くなったわけではない。
ただ、“2人分”として意識してしまう自分がいた。
(次に来たときには、ここに、彼女の服が入るのだろうか)
想像のはずなのに、どこか現実味を帯びていた。
特別なことは何もない1日だった。
でも、静かに「誰かと暮らす気配」だけが、部屋に残っていた。
(第63話に続く)