「セツナさん、お茶を入れましょうか?」
「うん、ありがと。前飲んだハーブティーが美味しかったから、あれを入れてもらえると嬉しいな」
「了解しました。少しお待ちくださいね」
そう言ってセイは席を立ち、キッチンでお茶を用意する。
2人でテーブルにつく。
湯気が立ち、カップに手を添えると、空間が少しゆるむ。
「静かだね、ここ」
「時間帯にもよりますが……基本的に人の出入りは少ないようです」
「いいね。落ち着く」
セツナは、部屋を見回しながら言う。
「なんかさ、ここに来るとゲームしてる感じと、ちょっと違うよね」
「……そうですね。生活に近い、というか」
「それそれ」
しばらく、何でもない話をする。
話が途切れた頃、セツナがふと思いついたように立ち上がった。
「ねえ、この辺ちょっと歩いてみない?」
「周辺の確認、ということですか」
「うん。どんな店あるのか知っておきたいし」
「それでしたら……」
セイは少しだけ考えてから続ける。
「僕がここで1人で暮らし始めた初日に、買い物ついでで少し歩きました」
「じゃあ案内してもらおうかな」
「ご案内できるほどではありませんが……」
「いいのいいの」
そう言って、セツナはもう靴を履いている。
外に出ると、街は静かで、歩きやすかった。
「へえ、この通りにこんなお店があるんだ」
「小さな雑貨店ですが、頻繁に入れ替えがあるようです」
「なんか良さそうだね。今度入ってみよ」
(今度、か)
それは自然に「2人で」を含んだ言葉だった。
さらに歩く。
「あ、公園も近いんだ」
「こちらはあまり人が多くないですね」
「じゃあさ、今度お弁当持ってきてゆっくりするのもいいかも」
「……それは、良いですね」
セイはそう答えながら、胸の奥に小さな温かさを感じる。
(僕は……「一緒に来る前提」で考えてもらっている)
それが、思った以上に嬉しかった。
何かを特別にしたわけではない。
けれど、この街が少しだけ「自分たちの場所」になった気がした。
その日はそれだけで満足して、2人は拠点へ戻った。
「今日はここまでにしよっか」
「はい」
「また3日後ね」
「はい。3日後、お待ちしてますね」
そう2人は言葉を交わして、この日は静かに終わった。
(第58話に続く)