※2月8日22:10に一部加筆修正。
その直後だった。
インターホンが鳴った。
モニターを見た瞬間、セイはすぐに立ち上がる。
――セツナさんだ。
ドアを開ける。
「セツナさん、いらっしゃい。お待ちしていました」
「来たよ、セイ。お邪魔します」
部屋に入ったセツナは、軽く周囲を見回した。
「あれ?なんか前に来たときと、雰囲気ちょっと変わってない?」
「そうですか?」
セイは少し考える。
「生活する上で、必要なものを整理しただけですよ」
「へえ。ちゃんと住んでる感じ出てきたね」
「そのつもりです」
リビングに案内しながら、セイは思い出したように言った。
「ハーブティー、いかがですか」
「うん。飲む飲む」
即答だった。
「でもさ、ちょっと意外。セイって、ハーブティー飲むんだ」
「向こうの世界でも、飲むこと自体はありました。仕事の合間とかですね」
湯を注ぐと、やわらかい香りが立ちのぼる。
「ただ、こちらに来てからは、少し理由が変わりました」
「理由?」
「この世界では、アバターなので寝なくても問題はないんですが」
カップを差し出しながら続きを言う。
「生活のリズムが崩れると、自分が生きている感覚まで分からなくなりそうで…」
「……うん」
「……ここでは、眠らなくても死ぬことはありません。でも、眠るという区切りをなくしてしまったら、いつか自分がただの『動いているデータ』になってしまう気がして……だから、不眠気味な夜でもあえて安眠効果のあるものを飲んで、無理にでも自分を休ませるようにしているんです」
「そっか…そういう事情があったんだね」
「……はい。でも、これからは少し、お茶を淹れる時の理由が変わるかもしれません」
「理由?」
「はい。眠るために『必要だから飲む』だけではなくて……誰かと、こうして過ごす時間の中にあるものとして扱える気がします」
セイの言葉に、セツナは少しだけ意外そうに目を丸くし、それから柔らかく微笑んだ。
「……そっか。それなら、私ももっと美味しく飲めそう」
セツナはそう言いながら一口飲む。
「……あ、普通においしい」
「それなら良かったです。味見したとき、セツナさんにも合いそうだと思ったので」
「そっか。ありがとね」
少し間が空く。
「もうここで普通に生活してるんだよね?」
「はい。寝起きも、ここです」
「ってことは、セイの部屋も決まってる?」
「ええ。あの奥の部屋を使っています」
「そっか」
少し考えてから、
「じゃあさ、残ってる空き部屋。私、使っていい?」
「もちろんです」
「あっさり即決だね」
「はい。問題ありませんので」
「じゃあ、あの手前の部屋。私用に決定ね」
「了解しました」
こうして2人の間では、その話は自然と終えられた。
(第53話に続く)