■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第49話) | 世羅の気功と日常ブログ

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

朝は、昨日とほとんど同じ時間に目が覚めた。


目覚ましが鳴ったわけでもない。


ただ、身体がその時間を覚えていた。

 

……起きられたな)

 

それだけで、少し安堵する。


特別な意味はない。


けれど、「今日も大丈夫だ」と思える程度の感覚はあった。

 

ベッドを出て、顔を洗う。


キッチンに立ち、昨日買ってきた食材を確認する。

 

(今日は……これでいいか)

 

迷うほどの選択肢はない。


だからこそ、決断も早い。

 

食事を用意して、食べる。


味を確かめるように、ゆっくり噛む。

 

……悪くない)

 

それだけで十分だった。

 

食べ終えて、カップを洗う。


動作は自然で、考え事は挟まらない。

 

(この後……いつもなら、何をしていただろう)

 

ふと、そんなことを思った。

 

会社に行って、与えられた仕事をこなして、必要な会話だけをして、1日を終わらせる。

 

それが「いつも」だった。

 

……じゃあ)

 

今の僕は、どうだろう。

 

仕事はない。


行かなければならない場所もない。


時間だけは、確かにある。

 

でも……何か、したいことはあるか、と自分に問いかけてみても、すぐには答え出なかった。

 

やりたいこと。


楽しいこと。


時間を忘れて没頭できるもの。

 

……思いつかないな)

 

そう考えたところで、少し、苦笑する。

 

考えてみれば、「やりたいことがあるからこの世界に来た」わけではなかった。

 

仮想空間という存在を知って、興味を持った。

 

父の会社が関わっていたという理由もある。


けれど、それだけではない。

 

……違う)

 

もっと、別の理由だった気がする。

 

現実では、僕はいつも何かの「枠」で見られていた。

 

誰かの息子で、何かの肩書きがあって、期待される役割があって。

 

でも、それらを外した状態で、「僕」を見てくれる人はいなかった。

 

誰かに話したいことがあったわけじゃない。


ただ、何も背負っていない自分が、どんなふうに存在できるのか。

 

それを、確かめたかった。

 

……この世界は)

 

それが、許される場所だった。

 

失敗しても、ズレても、奇妙に見えても。

 

それを「正しくない」「おかしい」と即座に断定されることはない。

 

現実のように、1度の選択で決定的に評価されることもない。

 

他人のフィルターを通して見られるわけでもない。

 

何かの価値観を押し付けてくることもない。

 

だから、正解を出さなくてもいい。


理由を説明できなくてもいい。


形にならなくてもいい。

 

ただ、試してみることができる。

 

――その感覚に、どこかで聞き覚えがあった。

 

……そういえば)

 

以前、セツナさんも、似たようなことを言っていた。

 

「この世界で、やってこなかったことを試してみたい」


そんな意味のことを。

 

はっきり覚えているわけじゃない。


ただ、今の考えと自然に重なった。

 

……似てるのかもしれないな)

 

意識して比べたわけじゃない。


そう思おうとしたわけでもない。

 

ただ、別々に考えていたはずの点が、ふと、つながったような感覚だった。

 

そのまま、いくつか取り留めのない考えが浮かんでは消える。

 

過去の自分。


この世界に来た理由。


今の在り方。

 

意味があるのかどうかも分からないまま、思考は流れていった。

 

そしてふと――

 

端末に表示された時刻が目に入る。

 

……もう、こんな時間か)

 

思わず、息を吐く。

 

(僕は……何を考えていたんだ)

 

一瞬、分からなくなって、それから、少しだけ分かった気がした。

 

……自分が、どう在りたいか、か)

 

答えはない。


結論も出ていない。

 

それなのに、不思議と疲労感はなかった。

 

むしろ――


どこか、軽い。

 

「無意味に思える時間」を過ごした、はずなのに――

 

だけど、なぜかそのことを否定したい気持ちにはならなかった。

 

ただ、流れに任せてただ思考していた自分に気が付いて、セイはふと小さく苦笑した。


そしてセイは、それ以上考えるのをやめ、自然と立ち上がった。

 

……まあ、いいか)

 

そう思いながら、いつもの流れに静かに戻っていった。

 

(第50話に続く)