買ってきたものを片付け終えたころ、ようやく一息つく余裕が生まれた。
最低限の物は揃った。
生活は、少なくとも破綻しない。
(……少し、休もう)
腰を下ろした瞬間、ふと視界に入ったのは、さきほど買ってきたハーブティーだった。
(そういえば……)
試しておかないと、人には出せない。
湯を沸かし、茶を淹れる。
立ちのぼる香りを待ちながら、カップを両手で包んだ。
一口。
(……悪くない)
強すぎず、後味も落ち着いている。
(これなら……)
そこまで考えて、思考は自然に別の方向へ滑っていった。
――以前、彼女と入ったカフェ。
自分が勧めたのも、こんな種類のブレンドだった。
どんな会話をしていたか。
彼女は、どんな表情をしていたか。
1人でいることが多い、と彼女は言っていた。
それは、1人でいるのが好きだからなのか。
それとも、そうせざるを得なかっただけなのか。
考える必要はないと分かっているのに、思考は止まらなかった。
無駄だと分かっていることほど、余裕があるときに浮かぶものだ。
ふと、端末に視線を落とす。
(……もう、こんな時間か)
時間を意識せず、何かを考え続けていた。
そんなことは、久しぶりだった。
これまでは、時間は常に意識しなければならないものだった。
眠れない夜を数え、過ぎない時間を感じ、人の視線から逃げるために、必死でやり過ごしてきた。
けれど今は、違う。
いつの間にか、時間から意識が外れていた。
(……どうしてだろう)
答えは、出さなかった。
カップを洗い、小さな片付けを済ませる。
その後の時間は、特別な出来事もなく、淡々と過ぎていった。
軽く食事をし、身の回りを整える。
昼と夜の境目は曖昧で、外の光が静かに色を変えていくのをただ眺めていた。
この1日は、何かを成し遂げた日ではない。
けれど、確かに「生活した1日」だった。
夜になり、照明を落とす。
家の中は静かだ。
不安が完全に消えたわけではない。
それでも、ここにいていいという感覚はもう疑う必要がなかった。
そうして、この家に来てから2日目が終わった。
イベントとしての区切りではなく、生活として、1日を終えた2日目。
明日もまた、ここで朝を迎える。
それはもう、特別なことではなかった。
セイは静かに横になり、そのまま目を閉じた。
(第49話に続く)