■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第45話) | 世羅の気功と日常ブログ

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「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

フライパンを取り出し、調理を始める。


手を動かしながら、キッチンの使い勝手を確かめる。

 

まだ慣れない。


けれど、致命的な問題点も見当たらない。

 

(これだけあれば、朝は何とかなる)

 

一方で、別の問題も見えてくる。

 

……昼は、少し厳しいか)

 

材料が少ない。


食事を「しない」という選択肢も、理屈の上では存在する。

 

この身体はアバターだ。


本当は、食事も睡眠も必須ではない。

 

それでも――


そうしないと、自分は“生きている感覚”を失ってしまう。

 

だから、食べる。


だから、眠る。

 

楽しむためではなく、存在を繋ぎ止めるための行為として。

 

……買い物に行くか)

 

朝食のため。


生活を維持するため。

 

それだけで、十分な理由だった。

 

フレンチトーストを裏返しながら、セイは静かにそう結論づけた。

 

――ふと、昨日のことが思い浮かぶ。

 

共有拠点での、共同作業。


特別な人イベント。


ポイント獲得のための、合理的な選択。

 

料理は、その手段でしかなかった。

 

感情を伴う必要は、なかった。


目的は、条件を満たすこと。


2人で何かを「共同で行う」という事実。

 

それだけのはずだった。

 

――それなのに。

 

食べている途中、自分が「おいしい」と感じていることに気づいた。

 

イベントのためでもなく。


生活の義務でもなく。

 

誰かと同じ時間を共有していたから。


それだけで、生じた感覚。

 

……そうか)

 

これまでの食事は、生きるための工程だった。

 

でも、昨日の食事は違った。

 

楽しむ、という意味が、初めてそこに混ざっていた。

 

まだ名前はつけられない。


けれど、確かに、違っていた。

 

普通のプレイヤーなら、ここに24時間も留まらない。


来て、用事を済ませて、ログアウトする。

 

拠点は、通過点。


舞台装置に過ぎない。

 

でも、自分は違う。


ログアウトできない以上、ここは生活そのものになる。

 

だから、無計画ではいられない。


かといって、物を増やしすぎる気もない。

 

ミニマムでいい。


必要なものだけを、必要な分だけ。

 

それでいい。

 

彼女の好みも知らないまま、勝手に空間を作り替えるつもりもない。

 

まずは、自分1人で困らずに生活できること。

 

それだけを整えよう。

 

必要なものは、必要になったときに、少しずつ。

 

そう決めて、セイはフライパンの火を止めた。

 

(第46話に続く)