静かな部屋。
確かにここには、これから続く生活の輪郭があり――
その先に、彼女と共有する時間が、まだ確定しない形で、静かに存在していた。
朝食の片付けを終えてから、セイは1度その場に立ち止まった。
(……出かける前に)
操作端末を起動し、簡易マップを表示する。
拠点を中心に、半径数ブロック分の街区が淡く浮かび上がる。
大通り。
人流が太く表示されているエリア。
それから、細かく枝分かれした裏道。
(人が少ないのは……)
視線を走らせながら、条件を1つずつ消していく。
・視界が開けすぎていない
・店の回転が早すぎない
・滞在時間の長い利用者が少ない
・生活目的の客が中心
(……ここだな)
拠点から2本ほど外れた細い通り沿いに、小さな店舗がいくつか固まっているエリアがあった。
看板は控えめ。
派手な装飾もない。
通過する人の数も、少ない。
(利便性はあるが、目立たない)
最短距離ではない。
けれど、遠回りでもない。
人に出会う確率を下げつつ、用事を1度で済ませられる。
(無駄がない)
セイはジャンル表示を切り替える。
――食料品
――日用品
一通り揃っている。
(十分だ)
ルートを確定させる。
意識的に、人流表示が細い道だけをなぞる。
(……この道、静かだな)
実際に歩き出すと、周囲の音は驚くほど少なかった。
遠くの喧騒は届くが、ここまでは入り込んでこない。
足取りは速すぎず、遅すぎず。
立ち止まる理由は作らない。
(この辺りなら……)
地形や建物の配置を、無意識に記憶していく。
どの角が見通しが悪いか。
どの時間帯なら人が増えそうか。
照明の明るさ。
生活圏として、把握しておくべき情報。
(……彼女が来たら)
ふと、通り沿いに小さなカフェが見えた。
派手さはなく、ガラス越しに見えるのは落ち着いた内装と少ない席数。
(静かだな)
昼時を外せば、人も少なそうだ。
(……セツナさん、こういうの好きかもしれない)
でも、それ以上は考えない。
今は、任務優先だ。
(第47話に続く)