朝の光は、思っていたよりも穏やかだった。
目を覚ましたセイは、しばらく天井を見つめたまま動かなかった。
身体が軽い、とまではいかない。
けれど、いつもより重くもない。
よく眠れた、というほどではないが、途中で何度も意識が浮上するようなことはなかった。
(……眠れた、のか)
理由ははっきりしない。
新しく生成された拠点だからなのか。
それとも――
そこまで考えてから、セイは小さく息を吐いた。
(……セツナさん、か)
そう思ったこと自体に、特別な驚きはなかった。
理由を探すよりも、ただ自然に浮かんできた感覚だった。
起き上がり、ゆっくりと立ち上がる。
室内はまだ簡素で、必要最低限しか揃っていない。
それでも、不思議と落ち着く。
ここは、自分の場所だ。
そして――
これから、彼女も訪れる場所になる。
(……だから、だな)
彼女が次に来るまで、まだ時間がある。
今日すぐ、というわけではない。
それでも、何もせずに待つ、という選択はどうにも落ち着かなかった。
(急ぎすぎる必要はない)
自分に言い聞かせる。
先回りはしない。
相手のため、という名目で自分だけが焦るのは違う。
(……まずは、把握だ)
セイはキッチンへ向かった。
何かを「揃える」前に、今ここに何があり、何が足りていないのかを知る。
シンク。
作業台。
棚。
視線で1つずつ確認していく。
冷蔵庫を開ける。
中に入っていたのは――卵と、食パン。
(最低限、だな)
朝食程度なら問題ない。
目玉焼きか、フレンチトースト。
簡単で、失敗しにくく、今すぐ作れる。
目的は、それで十分だった。
棚に視線を移す。
カップが並び、その横にあるのはコーヒー。
(……コーヒーだけか)
悪くはない。
これまでは、それで足りていた。
けれど、一瞬、別の選択肢が浮かぶ。
(ハーブティー……)
眠れない夜に、たまに飲んでいた。
ノンカフェインで、身体を落ち着かせるために。
(後で、買っておくか)
自分が飲むためだ。
それ以上の意味は、ない。
(……セツナさんも、嫌いではないかもしれないが)
そう付け加えても、胸の奥はざわつかなかった。
決めつけではない。
期待でもない。
ただ、可能性として浮かんだだけだった。
(第45話に続く)