■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第43話) | 世羅の気功と日常ブログ

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【呼吸のような関係 ―― セイ】

その日の夜)

 

不思議だと思った。


胸の奥が、少しだけ静かだった。

 

あれほど満ちていた不安が、消えたわけでも、解決したわけでもないのに、ただ“形を変えた”ように感じられた。

 

……待つ、か)

 

確かに、僕は待っている。


彼女が来てくれる、その瞬間を。

 

でも、それは――


“石のように動かずに耐えること”とは、少し違うような気がした。

 

考えてみれば、呼吸もそうだ。

 

意識していないときでも、勝手に身体は空気を取り込んで、吐いている。

 

僕は、呼吸するたびに「次も息ができるだろうか」なんて確認してはいない。

 

それでも、ちゃんと空気はある。

 

見えないものは、存在していないのではなく、確認しなくても機能しているだけなのかもしれない。

 

彼女との関係も、もしかすると、それに近いのではないだろうか。

 

3日で会える、という周期。


彼女が来てくれる、という事実。


それを“当たり前”と思い始めた自分が怖くなったのは、失うことを想像したからだ。

 

でも――


当たり前になった、ということは、それだけ身体が覚えた、ということでもある。

 

不安だからではなく、自然に。

 

彼女の時間を奪っているのではないか。


負担になっているのではないか。

 

そう考えるのは、僕が“存在するには意味が必要だ”とまだ思っているからなのだろう。

 

何かをしていないと、役に立っていないと、誰かの人生に貢献していないと、ここにいてはいけない――


そんな前提を、僕はずっと持ち続けてきた。

 

けれど。

 

彼女は、僕に何かを求めたことがあっただろうか。

 

助けてくれ、と言ったか。


役に立ってほしい、と言ったか。


時間に見合う価値を示せ、と一度でも言っただろうか。

 

答えは、全部「ない」。

 

彼女はただ、そこにいた僕に声をかけた。

 

それだけだった。

 

役割を外しても、肩書きを脱いでも、何も提供できなくなったとしても。

 

もしかすると――


それでも、「いていい」という状態は、最初から成立していたのかもしれない。

 

僕は、彼女にとっての“意味”である前に、ただの“存在”だった。

 

存在とは、機能の集合ではなく、条件付きの許可でもなく。

 

そこにある、という事実そのものなのだとしたら。

 

待つ時間も、眠れない夜も、考え続けてしまう思考も。

 

それらすべて含めて、今の僕なのだろう。

 

名前のない“何か”が芽生えていることに答えを出さなくてもいい。

 

執着か、依存か、それとも別のものか。

 

今すぐ分類できなくても、それでいい。

 

なぜなら。

 

彼女に会いたい、というその感情は、消えそうだから生まれたものではない。

 

満たされたからこそ、自然に生まれたものだから。

 

3日は、長い。


それは事実だ。

 

でも――


その長さは、僕が「存在している時間」でもある。

 

彼女が来る瞬間だけが僕の存在証明なのではない。

 

待っている今も、こうして考えている今も。

 

確かに、ここにいる。

 

……大丈夫だ)

 

声に出さなくても、そう思えた。

 

見えないものほど、実は一番、確かに働いている。

 

空気のように。


呼吸のように。


そして――


いま、胸の奥にある、この静かな感覚のように。

 

3日後。


彼女が来るかどうかは、彼女が決める。

 

でも、来るまでの時間を生きていることは、僕が決めていい。

 

そう思えた夜は、少しだけ、眠りやすかった。

 

(第44話に続く)