次の瞬間、静かなエリアに立っていた。
「……わ」
柔らかな自然光に包まれた一角。
その中央に、こぢんまりとした一軒家が佇んでいる。
「あれかな?」
「構造的に、そうだと思います」
玄関前で立ち止まり、セツナがぽん、と言う。
「じゃあ、私、鍵使ってみてもいい?」
「もちろんです」
セツナの手の中に、小さな鍵が現れる。
セイの端末にも、同じ鍵の表示。
(2人分……)
鍵を差し込むと、扉が静かに開いた。
「……」
中を見た瞬間、セツナが素直な声を漏らす。
「普通に、いい雰囲気じゃない?」
生活感のある家具配置。
無機質すぎず、作り込みすぎてもいない。
「そのまま使える設計ですね」
セイは1歩、中へ入る。
(……家だ。そしてここは、鍵を持つ者が“開けた時”だけ成立する空間だ。許可しない限り、誰も踏み込めない)
胸の奥に、落ち着く感覚が広がる。
(……帰れる場所、だ)
セイの胸に、ゆっくりと安堵が広がっていく。
それが、“セツナと一緒の拠点”だという事実に、少しだけ心が震えた。
「セイ、こっち!」
セツナはもう、楽しそうに部屋を見て回っている。
「ここでお茶できるし、映画とかも観れそうだね」
「……そうですね」
「うん。それにさ。ここがあれば外出なくても遊べるし、お金もかかんない」
「セツナさんらしい考え方ですね」
「ふふっ、そうでしょ」
そこでセイは、ふと考える。
(ここでなら、料理もできそうだ)
「……」
「どうしたの?」
「いえ。ここで、何か作るのも、いいかと思って」
「え、料理?」
「趣味なので」
セツナが、ぱっと笑った。
「いいじゃん。じゃあ今度来る時、お菓子とか色々期待してるね」
「……善処します」
その時だった。
「……そういえば」
セツナが振り返る。
「リング、もう発動してるよね」
「はい。常時、有効です」
「そっか。そのせいかな?さっきから今までより、妙に感覚が鋭くなっているというか、近い気がするんだよね」
「……」
セイは、否定できなかった。
距離が、物理的ではなく“感覚的に”近い。
セツナが、無意識に手を動かす。
その指先が、セイの手に、ほんの一瞬触れた。
「……!」
2人とも、反射的に手を引っ込める。
「……え、なにこれ」
「……増幅、しているようです」
少し、息を整える。
「……これ、ずっとなの!?」
「はい…そのようです…」
間。
「……まあ」
セツナは、少し照れたように言った。
「『特別な人』、だしね」
セイは、静かに頷いた。
「そう…ですね」
そして少し物思いにふけってしまう。
(……誰にも邪魔されない場所。僕の居場所…)
そう考えると少しだけ、ドキドキする。
そのドキドキが、居場所を得たことへのものなのか、それとも——別の感情なのか。
今は、深く考えない。
けれど、それだけで、十分だと思えた。
(第39話に続く)