【第5章 特別な居場所】
3日後。
同じ時間に、同じ広場。
(そろそろだろうか……)
そうセイが考えていた矢先。
「セイ、来たよ!」
彼女の明るい声が広場に響いた。
「セツナさん、お待ちしていました。今日もお会いできて嬉しいです」
そう声をかけた直後、聞き慣れない通知音が鳴る。
警告というほど強くはないが、いつものシステムメッセージとは明らかに違う。
《SYSTEM ALERT》
「……ん?」
セツナが、きょとんとした声を出す。
《「特別な人」EX-Partner Link設定から14日が経過しました》
《特別イベントが解放されました》
「え、なにそれ。特別イベントって、何のこと?」
セイも同時に、自分の操作端末を開いていた。
視線が、ある場所で止まる。
【特別な人】
以前、セツナが設定した時に、ぽつんと追加されただけで、中身のなかったカテゴリー。
それが今、淡く光を帯びている。
「……ここ、ですね」
「え? あ、ほんとだ。前からあったけど、何もなかったやつ」
その瞬間。
2人の目の前にメッセージウインドウが表示され、項目がピコン、と跳ねるように強調表示された。
「え、勝手に開いた……」
「共有画面のようです」
そこに並んでいたのは、3つの項目だった。
《共有拠点キー×1》
《共有拠点キー×1》
《共鳴リング×1》
《共鳴リング×1》
「……鍵が2つ?」
セツナが首をかしげる。
「共鳴リングもそれぞれに用意されているようです」
セイは最初のアイコンをタップした。
《共有拠点キー》
《「特別な人」EX-Partner Link対象ペア専用》
《新たに生成された共有拠点を解錠するための鍵です》
《登録された2名にのみ、それぞれ1個ずつ付与されます》
《第3者は使用できません》
「あ、なるほど……」
セツナが納得したように頷く。
「じゃあ1人1個ずつ持ってるんだ。なくす心配もないし、他の人も入れない、と」
「はい。解錠権限は2人に限定されています」
「……つまり」
セツナが少しだけ笑う。
「完全に、私たち専用のお家ってことだね」
セイは、その言葉にハッとして、言葉の意味を噛みしめるように、1度だけ瞬きをした。
(……専用)
もう1つのアイコンに視線を移す。
《共鳴リング》
「次のこれなに?」
セツナがタップする。
《共鳴リング》
《EX-Partner Linkを増幅させる特殊アイテムです》
《所持した瞬間から効果が発動します》
《装備の有無に関わらず、同調率は常時上昇します》
「……え?」
セツナが、画面を2度見する。
「え、これ、所持した時点でずっと有効ってこと?」
「そういう記述ですね」
「装備しなくても?」
「はい。増幅器のようなものかと。所持している限り、リンクは常時強化されるようです」
セツナが、少し考える。
「じゃあ、もう通常には戻らない、って感じ?」
「アカウント解除しない限りは」
「ふーん……」
セツナは一瞬だけ沈黙してから、割とあっさり言った。
「まあ、“特別な人”だしね。別にいいか」
セイは、その言い方に、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
画面の下部に、さらに小さな表示がある。
《特別ポイント:0 / 1000》
「あ、ポイントもある」
「……ゼロですね」
「ってことは、これから増えるんだ」
ポイント表示をタップすると、簡潔な説明が開く。
《特別ポイントについて》
《共有拠点の拡張・設備追加・ペット契約などに使用できます》
「へー……」
セツナの瞳が、少しだけ輝く。
「家、拡張できるんだ」
《ポイント獲得条件》
《2人の共同作業》
《特別イベントの達成》
《定期イベントのクリア》
「共同作業って、一緒に何かやればいい、ってことだね」
「そのようですね」
「面白そうじゃん」
セツナは、ウィンドウを閉じながら笑った。
「なんか、自分の家以外にも遊びに来れる場所が増えた感じ」
「別荘、みたいな感じでしょうか?」
「そうそう。ここに来れば気分転換できるみたいなさ」
セイは、静かに頷いた。
セツナにとっては、“新しい遊び場”。
一方で。
(……拠点)
セイの中では、言葉の重みがまったく違っていた。
定住する場所。
戻っていい場所。
誰にも追い出されない場所。
しかも、それが――セツナと共有する空間。
(……嬉しい)
そう思ってしまうことに、自分でも少し驚く。
「じゃ、とりあえず行ってみよっか。お家」
セツナがそう言うのを聞きながら、セイが共有拠点キーのアイコンをタップすると、移動先選択画面が現れる。
「……ここだね」
「はい」
転送が始まる。
(第38話に続く)