彼女からメッセージが来てから6日後。
広場は、相変わらずだった。
人の流れも、音も、光の具合も。
変わったものは、特にない。
それでもセイは、今日ここへ来る足取りが、少しだけ違っていることに気づいていた。
(……9日、か)
長かったか、と問われれば、そうでもない。
けれど、「3日で会える」という感覚が身体に馴染んでしまったあとでは、確かに、長く感じられた。
ベンチの近くで立ち止まり、何気なく視線を広場に巡らせた、そのとき。
「……セイ」
聞き慣れた声が、少し控えめなトーンで届く。
振り向いた先に、セツナが立っていた。
「久しぶりだね」
軽く笑って、申し訳なさそうに肩をすくめる。
「……9日ぶり、ですね」
言ってから、その言葉が責めになっていないかほんの一瞬、考える。
セツナは、それに気づいたように頷いた。
「ごめんね。間あいちゃって」
「いえ……」
言葉を選んだあと、セイは静かに続けた。
「お加減は、もう大丈夫なのですか」
「うん。もう平気」
即答でも、深刻さをごまかす感じでもない。
ただ、“落ち着いた人の声”だった。
「ちょっとね、体調が落ちてて」
「リアルのほうで?」
「そう。たまにあるやつ」
そう言って、曖昧に笑う。
「無理すると、あとで長引くって分かってたからさ」
セイは、それ以上聞かなかった。
理由を詰めない。
詳細を求めない。
それが、この9日でセイが選んだ態度だった。
「……また来てくださって、安心しました」
そう言うと、セツナは一瞬だけ目を瞬かせてから、ふっと表情を緩めた。
「よかった」
短く、そう言った。
「戻ってきても大丈夫かな、ってちょっとだけ考えたんだよね」
「大丈夫、ですか?」
「うん。間が空いたぶん、変に気まずくなってないかな、とかさ」
セイは首を横に振った。
「そんな…そのようなことは、ありません」
「そっか…」
その一言で、彼女の肩から、見えない力が抜けたように見えた。
「ありがとう。何も聞かずに、待っててくれて」
「……待つ、というほどのことでは」
そう言いかけて、セイは少し考え直し、正直に言い直す。
「ですが、変わらないように、していました」
セツナは、その言葉をゆっくりと受け取った。
「……それ、すごくセイらしいね」
「そうでしょうか」
「うん」
小さく頷いて、いつもの位置に腰を下ろす。
「じゃあさ。今日はリハビリ兼ねて、静かに過ごそっか」
「はい」
「カフェでもいいし、何もしなくてもいいしね」
その言葉を聞いて、セイは胸の奥で、静かに何かが整うのを感じた。
彼女は、戻ってきた。
戻ってくることを、彼女自身が選んで。
そして今、ここにいる。
それで、十分だった。
(第37話に続く)