■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第35話) | 世羅の気功と日常ブログ

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

そしてメッセージが届いてから3日後待っていても、彼女は広場に現れなかった。

 

いつもの時間。


いつもの場所。


人の流れは変わらず、世界はいつも通り動いている。

 

それなのに、彼女だけが、いなかった。

 

……そういう日も、ある)

 

そう思おうとして、胸の奥で小さく何かが引っかかる。

 

遅れる連絡もない。


理由の説明もない。

 

けれどそれは、心配すべき異変というより、「今は来られない」というただそれだけの事実だった。

 

セイは、深く息を吐いた。

 

以前の自分なら、ここで不安に呑まれていた。

 

何かあったのではないか。


自分のせいではないか。


連絡すべきか、待つべきか。


動かなければ、失ってしまうのではないか。

 

けれど今は、その思考が、どこか手前で止まる。

 

……休んでいるだけかもしれない)

 

彼女は、自分で動ける人だ。


必要なら、助けを求められる人でもある。

 

そして何より、彼女は「来られない自分」を責めるような人ではなかった。

 

セイは、ベンチに腰を下ろした。

 

今日は、ここに来ただけ。


探さない。


追いかけない。


理由を作らない。

 

それでも——

 

「何もしない」と決める前に、1つだけ、考えてみようと思った。

 

……僕に、何ができるだろう)

 

以前なら、答えはすぐに出ていたはずだ。

 

居場所を作る。


物を用意する。


楽しみを準備する。


喜ばせるための何かを探す。

 

実際、彼は歩いた。


静かな道を選び、賑やかな広場を避け、高台へ続く石段を上った。

 

風が通る場所。


遠くまで見渡せる視界。


騒がしさのない、余白の多い景色。

 

……ここなら、好きかもしれない)

 

そう思って、そこで立ち止まり、そして、気づいた。

 

(でもこれは……)

 

これは「彼女のために何かをした」という僕の納得のための行為だ。

 

彼女が休んでいる今、必要なのは、新しい刺激だろうか。


気晴らしだろうか。

 

——違う。

 

彼女が今、必要としているものは、「戻ってきたときに、何も変わっていないこと」なのではないだろうか。

 

セイは、その場に立ったまま、しばらく考えた。

 

彼女は、特別なことを求めて、この世界に来ているわけではない。

 

できなかったことを、無理に取り戻そうとしているわけでもない。

 

ただ、自分のペースで、自分のままでいられる場所を選び、こに来ている。

 

だったら、僕がすべきことは、何かを増やすことでも、整えることでも、用意することでもない。

 

……変わらずに、いること)

 

彼女が戻ってきたとき、説明を求めず理由を聞かず元気を装わせることもなく「来られなかった時間」を問題にしない存在でいること。

 

それが、今の自分にできる、唯一の行動だとセイは思った。

 

ベンチに腰を下ろす。

 

彼女が来ない時間も、この世界は続いている。

 

自分がここに存在していることも、誰かに証明する必要はない。

 

成長し続ける、というのはきっと、前に進み続けることでも、強くなることでもない。

 

同じ状態を、同じ選択を、何度でも選び直せること。

 

不安に戻らない。


意味を求めない。


役割を引き受けようとしない。

 

ただ、「いていい自分」でそこに居続けること。

 

……それでいい)

 

彼女が戻るかどうかは、彼女が決める。

 

けれど、彼女が戻ってくる場所を壊さずに保っておくことは、僕が決めていい。

 

セイは、立ち上がらなかった。


何かを探しに行くことも、しなかった。

 

ただ、そこにいる自分を選んだ。

 

その夜は、不思議と、眠りやすかった。

 

(第36話に続く)