前方に、ふと引っかかるものを感じて、セツナは足を止める。
霧が、昨日よりも明らかに濃くなっていた。
「ここ……昨日の場所の、すぐ近くだよね」
「はい」
セイが数値を確認しながら、低く言った。
「昨日は発生直後だったため、異変はまだ“兆候段階”に留まっていましたが、本格化したことで、中心位置を特定できました」
「なるほどね。本命は、こっちか」
ミズキが目を細める。
霧の中。
植物が、不自然に絡み合っていた。
「ちょっと、様子見るね」
セツナは距離を保ったまま、しゃがみ込む。
「触らずに確認だけ――」
その瞬間。
絡み合った蔦の一部が、意思を持ったように弾ける。
「っ!」
反射的に身を引いたが、腕に鋭い痛みが走った。
「セツナ!」
ミズキが即座に前に出る。
一閃。
蔦はあっさりと断ち切られ、霧の中へと沈んだ。
「大丈夫?」
「うん……このくらいなら」
セツナはそう言いながらも、腕を押さえる。
薄く血が滲んでいた。
「無理しないでください。霧の影響を受けた環境反応です。軽傷でも、放置は推奨されません」
セイが1歩近づく。
「そうそう。こういう時のための、『簡易ポーション』でしょ」
ミズキは『所持アイテム一覧』を操作し、小瓶を取り出した。
《簡易ポーション》
「軽度の外傷と違和感を即時に緩和できるよ」
ミズキはそう説明しながら、差し出す。
「ありがと」
セツナは受け取り、一口飲んだ。
「……ほんとだ。もう気にならない」
「でしょ」
ミズキが満足そうにうなずく。
そのとき。
「……あ」
セツナが、ふと視線を奥へ向けた。
霧のさらに中心。
地面の一部が、わずかに歪んでいる。
「セイ、あれ」
「確認します」
セイがしゃがみ込み、情報を解析する。
「原因、特定できました。地中の結晶片がズレています。この位置関係だと、周囲に干渉霧が発生しますね」
「じゃあ、元の位置に戻せば終わりだ」
ミズキが言う。
3人で慎重に作業を行う。
結晶片が正しい位置に戻された瞬間――
霧が、すっと引いていった。
絡み合っていた植物も、静かに元の姿へ戻る。
「……これで、もう大丈夫、かな?」
セツナが息をつく。
「問題ありません。干渉反応、完全に消失しました」
セイが断言する。
「よし、これで今回のクエストは終了だね。2人とも、初めての中規模クエストなのによくやったよ」
ミズキが満足そうに言う。
その瞬間、視界に文字が浮かぶ。
《クエストクリア》
《報酬:マネー+特殊アイテム〈共鳴の鈴〉》
「……終わったみたいだね」
「はい。クエストクリアです」
「『共鳴の鈴』パーティー全員を即座に集合させられる共有アイテム、か。なかなか便利なの引いたね」
ミズキが確認する。
「これがあれば、何かあってもすぐ合流できますね。3人で動くには、心強いです」
セイは静かに言った。
街へ戻り、広場に着く。
人の気配が増え、それぞれの日常が少しずつ戻ってくる。
「じゃあ、今日はここで解散だね」
ミズキが言った。
「ありがとうございました」
セイはきちんと頭を下げる。
「こちらこそ。いいパーティだったよ」
「また、やろうね」
セツナは少し名残惜しそうに笑いながらそう言った。
「はい」
少し間を置いて、セイは続ける。
「……次は、日帰りじゃないのも、いいかもしれません」
その言葉に、2人が同時に笑った。
「おっ、言うようになったじゃん」
「いえ、その……」
「まあまあ、そういうの大事だからね。それじゃ、お疲れさま」
ミズキが手を振る。
「お疲れさまでした」
「またねー」
2人が去っていくのを見送りながら、 セイは胸の奥で、ゆっくりと呼吸をした。
昨日、「おやすみ」と言い。
今朝、「おはよう」を交わした。
そして今、「またね」と約束ができた。
(……悪くない)
そう思えたことに、 自分でも少し驚きながら――
セイは、次の1歩を踏み出した。
(第33話に続く)