静かな朝だった。
セイは、いつもより少しだけ早く目を覚ました。
宿の天井は見慣れないはずなのに、不思議と落ち着いている。
すぐに起き上がることはせず、しばらく布団の中で、周囲の気配に耳を澄ませた。
誰かが寝返りを打つ音。
小さく、寝息が重なる。
(……あ)
胸の奥が、ほんのわずかに温かくなる。
昨夜は、確かに「おやすみ」と言った。
そして今、この世界で「朝」を一緒に迎えている。
その事実を、ゆっくりとかみしめる。
「……おはよう」
思わず、小さく声に出していた。
「ん……おはよ……」
先に反応したのはセツナだった。
まだ半分眠った声で、布団の中から顔を出す。
「早いね、セイ」
「……少しだけ」
その声に反応して、もう1人も動く。
「おはよー」
ミズキが大きく伸びをする。
「なんか、良い朝じゃない?」
「はい……そうですね」
セイは頷いた。
「なにそれ、含みある言い方」
セツナがくすっと笑う。
セイは少しだけ迷ってから、正直に答えた。
「誰かに、おやすみと言って。その人たちに、おはようを返してもらえるのが……」
言葉を探す。
「思っていたより、嬉しいです」
一瞬、部屋が静まったあと。
「……それ、めっちゃ大事なやつじゃん」
セツナが言った。
「うん」
ミズキも頷く。
「普通に過ごしてると忘れがちだけどさ。でも、こうやって泊まると分かるよね。1日の始まりと終わりを、誰かと共有できるって大切なことだよ」
セイは、静かにうなずいた。
それは、旅の途中に挟まれた、ほんの短い「日常」だった。
だからこそ、セイはそれを、大事に胸にしまった。
(第31話に続く)