広場を並んで歩いていると、セツナがふと立ち止まり、視線を動かした。
「ねえ、セイ」
「はい?」
「この前気づかなかったけど、ここにこんなのあったんだね」
指さした先には、掲示板のようなものがあった。
広場の一角に設置された、簡易クエストボードだ。
セイは一歩近づき、表示内容を確認する。
「……日常系クエストの一覧ですね。短時間で参加できるものが多いようです」
「へえ」
「強い人とかじゃなくても、気軽にできる感じ?」
「はい。個人でも、複数人でも参加可能なようです。報酬はマネーか、便利アイテムですね」
「ふーん、面白そう」
セツナは一覧を上から下まで眺めてから、少し楽しそうに言った。
「ね、セイ。せっかくだし、何か1つやってみない?」
セイはすぐには答えず、内容をもう1度確認する。
「……短時間で終わりそうなものが多いですね。セツナさんがよろしければ、無理のないものを」
「うん。軽いやつでいいかな」
視線を動かしたとき、セイはひとつの表示に目を留めた。
《簡易クエスト:迷子の子どもの保護》
《報酬:小額マネー+装飾用バレッタ(花モチーフ)》
「……これ」
セイが表示を示す。
「報酬、バレッタだそうですよ」
「え、ほんとだ。これ可愛い」
セツナが即反応する。
「ね、これやろうよ」
「……そうですね。難易度も高くありませんし、時間的にもちょうど良いかもしれません」
指定地点に着くと、不安げに立ち尽くしている小さなNPCの子どもがいた。
「……あの子だね」
セツナはほとんど迷わず歩み寄る。
「大丈夫?どうしたの?」
しゃがんで、視線を合わせる。
その様子を少し離れた位置から見ながら、セイは周囲を見渡していた。
人の流れ。
NPCの巡回ルート。
行き止まりになっている通路。
「……」
小さく考えてから、静かに言う。
「セツナさん。そのまま、ここで待っていてもらえますか」
「え?」
「この子がここまで来られた、ということは、親御さんもこの広場までは来ている可能性が高いです」
視線を、通路の入口へ向ける。
「NPCは基本的に“元の行動範囲”に戻ろうとします。探し回るより、戻り口を押さえたほうがきっと早い」
セツナは一瞬考えてから、頷いた。
「なるほど。じゃあ私は、この子と一緒にいるね」
少しの沈黙。
セイは戻ってきて、セツナの横ではなく、少し前に立つ。
人の流れを遮る位置。
(……風除け、か)
セツナは気づき、何も言わずに微笑んだ。
(第13話に続く)