それから2人は何度か顔を合わせていたが、今日は特に目的も決めず、ただ並んで歩いていた。
人の流れが少し多い通りに出たとき、セツナがふと足を止める。
「……ちょっと待って」
「はい?」
顎で、少し先を示す。
「今の人、なかなかじゃなかった?」
視線の先には、すれ違っていく男性プレイヤー。
確かに、整った顔立ちではある。
セイは一瞬だけ確認してから、首を傾げた。
「……そうでしょうか」
「え、分かんない?」
「正直に言うと……あまり基準が分からなくて」
「え、ちょっと待って。“基準が分からない”ってどういうこと?」
「……はい?」
セツナは人差し指を立てる。
「イケメンにはね、ちゃんと種類があるの」
「種類……ですか?」
「王道系、塩系、知的系、無自覚系。あと、顔は普通でも雰囲気で全部持っていく人」
楽しそうに、少し早口になる。
「声と表情のギャップとか、立ち姿が綺麗とか、眼鏡外したら急に美形とかね」
「あの……」
「中性的な顔立ちとか、瑞々しさが残ってる青年とか、綺麗系男子も捨てがたいし……」
「セツナさん……」
そこで、はっとしたように口を閉じる。
「あ」
小さく笑って、手を振った。
「ごめんごめん。また熱くなってたね」
「い、いえ……」
「でもね」
歩き出しながら、何でもない調子で続ける。
「誤解しないでほしいんだけど、私、イケメンが好き=恋愛対象、ってわけじゃないから」
「……?」
「ただの鑑賞物として好きなだけ」
あっさりと言い切る。
「実際に人を好きになるときは、顔より中身のほうがずっと大事って思ってる」
セイは、少し意外そうに目を向けた。
「内面……ですか」
「うん。一緒にいて安心できるとか、価値観が合うとか、そういうところ」
少し間を置いてから、笑う。
「だからさ。顔が良くても中身が合わなかったら無理だし、逆に、顔なんてどうでもよくなることもあるよ」
セイは、その言葉を静かに受け止める。
「……そうなんですね」
「そうそう。心の潤いとしてイケメン鑑賞してるだけ」
少し歩いてから、セツナが言う。
「そういえばさ。今の話で思ったんだけど……セイって、リアルだとどんな人なの?」
「僕ですか?」
「年齢とか、雰囲気とか」
一拍、間を置く。
「年齢は……28です」
「ふーん」
「外見については……特に目立つようなものはないと思います」
「自己評価、相変わらず低いね」
「現実でお会いしたら、イメージと違うかもしれませんし」
半分本気で、半分は予防線。
セツナは肩をすくめて笑った。
「大丈夫だと思うよ。さっき言った通りだし」
「……?」
「顔より、その人がどう人と関わろうとするかのほうが、ずっと気になるから。それにさ、私もセイが思ってるような人じゃないかもしれないしね」
「そんな……セツナさんはどんな姿でも、きっと素敵な方だと思います」
「そうかな?」
「はい。お人柄や雰囲気を見ていれば、そう思えます」
「ふふっ。セイってば。でもね。ほんと、リアルでの姿がどうとかも、もちろん無関係じゃないけどさ。でも私にとっては、今ここにいるセイがセイだからさ。だから、そこまで気にしてないっていうのが一番の本音かな」
その一言は、慰めでも、評価でもなく、ただの事実のように落ちてきた。
セイはそれ以上、何も言わなかった。
けれど、胸の奥で、小さく何かがほどけたような気がした。
(第12話に続く)