■ Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第10話) | 世羅の気功と日常ブログ

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

エレベーターを降りた瞬間、ひんやりとした夜風が頬を撫でた。

 

一気に視界が開け、街の灯りが静かに広がっている。

 

足元から遠ざかる生活音。

 

この高さでは、世界が少しだけ遠い。

 

セイは、無意識に柵のそばへと歩み寄った。

 

……寒くないですか?」

 

振り返って、確かめるように尋ねる。

 

「大丈夫」

 

その一言に、息をつめていたものがほどけた。

 

「でしたら……よかったです」

 

並んで、夜景を見下ろす。

 

風が、規則正しく吹き抜けていく。

 

「この高さだと……音が少なくて考え事をするには、ちょうどいい場所なんです」

 

セイは、ぽつりと言った。

 

「よく来るの?」

 

少し意外そうな声。

 

「はい……一人の時は」

 

それ以上は付け加えなかった。

 

しばらく、二人とも空を見上げている。

 

夜空は人工的で、それでも不思議と落ち着いていた。

 

「でも」

 

セイは、静かに続ける。

 

「こうして誰かと来ると…… 少し、景色の見え方が変わりますね」

 

「どう変わるの?」

 

問いかけは柔らかい。

 

……温度があります」

 

言ったあと、照れたように視線を逸らした。

 

それ以上、説明はしない。

 

それで十分だと思えた。

 

風が少し強くなり、コートの裾が揺れる。

 

「そろそろ戻りましょうか冷えてしまうと……よくないので」

 

セイは穏やかに言った。

 

「うん」

 

展望台を後にして歩き出す。

 

帰り道、自然と並ぶ距離が少しだけ近づいた。

 

足音が重なる。

 

言葉はなくても、静かな共有感があった。

 

ログアウト地点に戻ると、淡い光がセツナの足元に集まり始める。

 

「今日は、本当にありがとうございました」

 

いつもの礼儀。

 

けれど、ほんの少しだけ柔らかい声。

 

「こちらこそ」

 

少し間を置いてから、セイがためらいがちに続けた。

 

「あの……また、3日後、ですよね?」

 

「うん、また3日後だね」

 

「よかった……あ、いえ、その……またあなたに会えると思うと、嬉しくて……」

 

言い終えた直後、少しだけ視線を逸らす。

 

「ふふっ、ありがとね。それじゃ、また3日後に」

 

「はい。セツナさんも、それまでどうかお元気で」

 

「はーい。それじゃあ、またね」

 

「はい。お気をつけて」

 

そうして、セツナは再び光に包まれ、 ゆっくりとその姿を消していった。

 

その場に残されたセイは、 しばらくのあいだ、夜空を見上げていた。

 

胸の奥で、静かに時間を数える。

 

……次は、3日後)

 

以前のような不安は、なかった。

 

(待てる)

 

理由はない。

 

ただ、そう思えた。

 

夜景は変わらずそこにあり、セイはゆっくりと、その場を後にした。

 

(第11話に続く)